「その必要はないよ。」
バキバキバキッ!!メリメリッ!!
物凄い衝撃音がして、天井が割れ、上から瓦礫の山が雨あられと振ってきた。
天井から五メートルのもの大きさの悪魔の罠の太いツルが、まっすぐにマルフォイ目掛けて
超速で降下してきた。
「な、なにぃぃ・・・まさか・・遠隔操作で・・。」
「ようやくたどりついたようね・・その植物、心が黒ければ、黒い人ほど好きらしいね。」
の目がかっと赤色に染まり、皮肉っぽく微笑んだ。
ルシウス・マルフォイは、今や、頭上から真っ直ぐに降下してきた「悪魔の罠」のつるに
首や胴体をからめとられ、ぎりぎりと締め上げられ、息、たえだえにあえいでいた。
彼女はマルフォイが掴んでいた腕を素早く振り解き、ハリーのもとへ駆け寄った。
「すぐに彼を解放するんだ。馬鹿女!!さもないとあんたを殺してやる!!」
べラトリックスが、ありったけの勇気をかきあつめて怒鳴った。
「状況をよく考えろよ。このつる、相当凶暴化してるみたいだよ。
あんたが彼女を攻撃すれば、興奮して、逆にあんた達、全員を殺しに襲いかかるだろうな。」
一気に形勢逆転したのを感じたハリーは、勝ち誇ったような笑みを浮かべて言い返した。
「
!ハリー!!どこだ!!」
そのころ、九階の神秘部の扉を次々とこじ開け、シリウス・ブラックは大またで
必死に走りながら二人の名前を叫んでいた。
「ジェット機なみのスピードね。シリウスがあんなに危険な顔つきをしたことがある?」
「今までなかったよ。二人が自分の命より大切なんだ。」
トンクス、ルーピンはやや青ざめた顔で、会話を交わし、先陣切って矢のように走るシリウス・ブラックを必死に
追っていた。
「
!!ハリー!!絶対に助けてやるからな!!」
シリウスは、ひどく引きつった顔で彼女の名前を呼び、さらに速度をあげて猛然と走った。
「奴ら、こんなことを仕組んで、ただではすませられないな!」
ルーピンがやっとのことで、シリウスに追いつき、はぁはぁあえぎながら叫んだ。
「ああ。一人残らず、地獄に送ってやる。一人残らず。」
シリウスは、憎悪にゆがんだ恐ろしい形相で、目の前の黒いドアを開けた。
次の瞬間、上のほうでドアが開き、先陣きってシリウス、ルーピン、トンクス
それからすぐ後に続いたミナ、キングスリー、ムーディ、フェリシティーら七人が剣のように杖を抜き、
どやどやとなだれ込んだ。
途端に悪魔の罠がマルフォイを振り落とし、彼は地面に叩きつけられた。
トンクスが何か叫んですかさず、マルフォイめがけて失神呪文を浴びせた。
マルフォイは間一髪、床を転がって、呪文を避けた。
六人がバタバタと階段を駆け下り、一番速く地面にたどりついた
シリウス・ブラックが近くにいたデス・イーターに階段から、ジャンプして襲い掛かり、先手必勝と杖を握ったまま、
男の頬に強烈なパンチを繰り出した。
フェリシティーは、テコンドーの素晴らしい回し蹴りをがっしりとした男、ルックウッドに
二回転お見舞いし、すかさず、地面に転がった相手に反撃する隙をあたえずに杖を振り上げ、石壁めがけて吹っ飛ばした。
「伯母さん、かっこいい〜」
「危ない!!頭伏せて!!」
ハリーは台座から飛び降り、素早く
の手首を掴んで頭を伏せさせた。
二人の頭上を二本の光線が通過した。
「予言をよこせ!」
二人がひと安心したのも束の間、ハリーは男に足首を後ろから捕まれ、床を引きずられた。
「エクスぺリアームズ!!」
素早くそれに気づいた
が杖を振り上げ、男を数メートル先に吹っ飛ばした。
ミナはべラトリックスと、死闘を繰り広げていた。
双方とも、防御、攻撃に優れているので、呪文が空中で跳ね返り、なかなか相手に
命中しないのだ。
「けがわらしい吸血鬼め。おまえの命運も今日で終わりだよ!!よくも
姉さんを苦しめたね!おまえがルシウスとよろしくやってるのは知ってるんだ!」
「何をおっしゃってるのか理解出来ないわね。マルフォイはとんでもない
人殺しだわ!!あんたもそうよ!よくもうちの姪を危ない目にあわせてくれたわね。」
二人は毒々しい憎しみの目つきで、互いを威嚇し、罵った。
緑や黒の光線をミナの杖から、赤や黄色の光線がべラトリックスから発射され、空中で
激しくはねかえり、ハリー、
の髪を何度もかすめた。
ムーディはとっくにデス・イーターにやられ、地面に空しく転がっていた。
彼を倒したデス・イーター、ドロホフが狂喜乱舞して今度はハリー、
二人に襲いかかって来た。
「
!」
フェリシティーが彼女の首をしめようと後ろから襲いかかってきた、マクネアに
強烈なひじ撃ちを食らわし、大慌てで二人のもとへ向かおうとした。
だが、その前にシリウスがどこからともなく飛んできて
肩でドロホフにぶつかり、吹っ飛ばした。
「ミナ!」
フェリシティーが絹を切り裂くような悲鳴に後ろを振り返り叫んだ。
倒れたはずのマクネアが起き上がり、いつの間にかミナ・ブラドの首をぎりぎりと締め上げているではないか!
彼女は矢のように飛び、マクネア目掛けて走り出した。
彼女はジーンズに巻きつけていた、シルバーのずっしりとした鎖を引きちぎり、
マクネアの発射した呪文をかろうじてよけ、彼に飛びかかり、ひきちぎった鎖を彼の首に巻きつけ
締め上げ始めた。
彼が苦しさのあまり、手を離したのでミナは床にくずれおちた。
「ハリー、
早く!予言を持って走れ!!」
シリウスがドロホフと決闘しながら大声で叫んだ。
「石になれ!」
シリウスに向けてドロホフが、ハーマイオニーにかけたのと
同じ杖の動きを始めたので、はじかれたように立ち上がった
ハリーが叫んだ。
「いいぞ!伏せろ!」
シリウスが嬉しそうに叫びながら、二人の頭を引っつかんで地面に伏せさせた。
「さあ、
、ハリーと共にここをでて・・」
再び、三人は身を交わした。
緑の閃光が危うくシリウスにあたるところだったが、偶然、苦しそうに咳き込みながら床から
立ち上がったミナが、「妨害せよ!」
と杖を振り上げ、叫んだので大事には至らなかった。
フェリシティーは首を締め上げていたマクネアを突き放し、素早く脚を高く掲げ、
マクネアの肩に回し蹴りをお見舞いした。
彼がそれでもなお、立ち上がろうとしたので、情け容赦なく彼女は、「石になれ!」
と杖を剣のように振り回して叫んだ。
二人は下で決闘している人々を眺めながら、石の階段を上って逃走しようとしていた。
その時、後ろから手が伸びてきてあっというまに
は首に手を回され、再び杖を突きつけられてしまった。
「ポッター、予言を渡せ!!」
「渡しちゃ・・だ、め!」
苦しい息の中から、彼女は叫んだ。
もうすでに闇の召還術の力を使い果たしてしまったので、「悪魔の罠」は呼べない。
は絶望と軽いめまいで、目の前がくらくらとした。
ルシウス・マルフォイがハリーにあざけるように言った。
「渡さないと、今度は酷いぞ。」
「絶対に・・わ、た、すな・・」
は力の使いすぎで、ぐったりと彼の腕の中に倒れこんだ。
ドーン!!ドーン!!
二発の銃声が二人の耳をつんざいた。
硝煙があたりにたちこめた。
「あ、あ・・」
マルフォイは白目を向いて仰向けにのけぞり、バタンと倒れた。
彼の左肩からみるみるうちに大量の血が噴出した。
ハリーはびっくりして音源の方向を見つめた。
何と、いつからそこにいたのか、数メートル先の石段の裏側に六連発銃を握り締めたまま、目に激しい怒りを浮かべたジェニファー・アダムズ・ブラックが
しゃがみこんでいた。
彼の手に握られていた予言の球は、銃声の衝撃で手を離れ、階段の下に
落ちて粉々に砕け散っていた。
ジェニファーの目にちらと歓喜と、激しい誇りの色が輝いた。
「あの・・助けてくれてありがとう・・」
ハリーは血の海でぴくりとも動かない、ルシウス・マルフォイを激しい憎悪の色をこめて睨みつけ、
一介のスクイブである、シリウスの妹に対する隠された勇気を賞賛した。
「ダンブルドア!!」
ムーディ、キングスリー、トンクスがやられてしまったので、残りのデス・イーターを相手にしていて
悪戦苦闘のルーピンが突然叫んだ。
皆、デス・イーターも揃いも揃って、目の前の開け放たれた黒いドアを見つめた。
杖を高く掲げ、その顔は圧倒的な憤怒に満ち溢れた彼はそこに立ち尽くしていた。
ダンブルドアは素早く目でフェリシティーに合図した。
了解した彼女は、壁にぶちあたって頭から血をだらだら流しているルックウッドを
杖から繰り出した縄で縛った。
他のデス・イーター達は悲鳴をあげて部屋を逃げ惑い、他の出口から逃走しようとした。
ダンブルドア、フェリシティーは一人も逃がすまいと呪文を発射し、
蜘蛛の子を散らすように逃げる、デス・イーターを一人、また一人と引き戻していた。
ただ一組だけは周囲の状況などかえりみずに、皮肉な宿命の決闘を繰り広げていた。
ちょうどその時、
が一時的にルーピンの腕の中で意識を取り戻した。
「気がついたか!よかった!」
ルーピンは起き上がった彼女を息が止るほどに抱きしめた。
「シリウス!!」
ハリーが叫んだ。
も抱きしめられたまま、何事かとくるりと後ろを振り返った。
「どこを狙ってるんだ?そんなんじゃ私は倒せないぞ!」
シリウスは吼えるような笑い声で、べラトリックスを挑発している。
飛んできた紅い閃光をかろうじて彼は身をよじってかわした。
「お〜い、
!!私の手並みを見てくれ!!」
彼が頭の中で景気よく叫んだように
は思えた。
燃えるような私と一緒の黒髪、灰色の一つも濁りのない瞳−あの真っ白な太陽に輝くような歯!
彼女の頭の中で彼の姿が不自然なほど明るく浮かび上がった。
シャンデリアの下で、踊った彼は何と魅力的だったことだろう!
さよなら、
・・
、愛しているよ・・愛している・・
「あ、ダメ!シリウス!!」
彼女の頭の中で最後に彼が告げた言葉が繰り返され、彼女は思わず叫んだ。
彼女はルーピンの腕の中から、身を乗り出した。
二番目の閃光が鋭利なナイフのように、真っ直ぐに彼の胸に突き刺さった。
「シリウス!!」
とハリーが叫んだ。
「
・・」
シリウスの目が一瞬だけ、こちらに向けられ、彼女の耳には彼の苦し紛れに呟く声がはっきりと聞こえた。
「いやぁあああああああああああ!!!!」
の絶叫がわんわんと壁にこだました。
シリウスの目は衝撃で大きく見開かれ、顔にははっきりと臨終の相が表れ、肉体は、優雅に弧を描き、アーチにかかっている古ぼけたベールをつき抜け、
静かに沈んで姿が見えなくなった。
かつてあんなにハンサムだったブラック家の貴公子はここに最期を遂げたのである。