「ふざけるなよ!くそったれ!!どういうつもりだ!?あの頭デッカチめ!!」
翌朝、ロンが三人より、だいぶん遅れて罵詈雑言を吐き散らしながらドスドスと朝食時の大広間に駆け込んできた。
「ロン、どしたの?」
食べかけのかき卵を口にくわえたまま、
が何事か?と目をぱちくりさせた。
「どうしたもこうしたもあるかよ!?あれでも実の兄貴か?信じられないぜ!」
ロンはカンカンに怒って「パーシーからだよ」といって、クシャクシャにした手紙をベーコンエッグを食べていたハリーの目の前に放り投げた。
ハリー、
、ハーマイオニーは急いで手紙を覗き込んだ。
三人がものの数分で完読し終わると、ハーマイオニーは何とも言えない表情で、
は「裏切り者!」と短く呟き、ハリーは顔全体にまごついた笑いを浮かべて
ロンを見た。手紙にはロンの監督生就任祝いの言葉とハリー・ポッターとの付き合いをやめろとの信じられない辛らつなことが書き連ねてあった。
「さぁ・・ね・もしーー君がえーと何だっけ?「僕とのつながりを断ち切る」つもりでも、僕は暴力を振るわないと思うよ」
数分のいや〜な沈黙の後、ハリーは苦々しく笑って、ロンに告げた。
「返してくれ!こんなもん僕が信じると思うか?」
ロンはハリーから手紙をスッとひったくって、アッというまにビリビリに引き裂いてしまった。
「どうして?ロンの兄さんは気でも狂ったの?あんなに長い付き合いなのに・・・よくあんなこと書けるのね?」
が心底あきれ返って言った。
「そういうやつだったのさ。出世に目がくらんだんだろ。そんなとこさ。あ〜ちくしょう!あの馬鹿兄貴!!むかっ腹が立つぜ!!」
ロンは赤毛に負けないぐらい真っ赤な顔で、大広間のテーブルをバシンと拳で叩いた。
「あ〜〜〜〜何よ!もう!これ!」
絶望の極みの声で新聞を読んでいた
がうめいた。
「今度はなんだい?」
ハリー、ロンが「もうビックリすることには慣れてるよ」と苦笑いしながら彼女のほうに向き直った。
「魔法省、教育改革に乗り出す ドローレス・アンブリッジ、初代高等尋問官に」
ハーマイオニーが
が持っていた新聞を読み上げた。
「こんなのあり?あの忌々しい女が防衛術の先生ってだけでも絶えられないのに〜〜今度はお目付け役!?冗談キツイわ。」
が天を仰いで情けない声で言った。
「まったくだ」
ハリーが暗雲たる顔つきでうなずいた。
「これであの女が来たかわかったわ。ファッジが教育令を出してあいつを学校に押し付けたのよ!そして今度はほかの先生を監視する権限を与えたんだわ!
信じられない!こんなこと許されていいの!?」
ハーマイオニーも目をぎらぎらさせて怒り狂った。
「ロン、ちょっと何にやにや笑ってるのよ!?」
が「この非常時によく笑えるわね」ムッとして付け加えた。
「ああ、マグゴナガルが査察されるのが待ち遠しいよーーアハハハッ」
ロンが鼻の頭のそばかすをかきながら言った。
体が笑いすぎて上下に揺れていた。
「あの婆さんさぞかし、コテンパンにやられるぞ!」
彼は上機嫌でピューッと口笛を吹き始めた。
「さ、行きましょうよ。もしもアンブリッジの婆さんが魔法薬の授業を査察するようなら、まずいわよ。遅刻なんかしたら私たち、大目玉を食らっちゃう。」
ハーマイオニーがサッと立ち上がり、
の腕をとった。
「うへぇ・・・そいつは嫌だな。」
「僕も朝から地獄を見たくないね」
ロン、ハリーはせかせかと口にトーストのかけらをつめこみ、二人の後を追った。
しかし、アンブリッジは本日二時限続きの魔法薬の査察には来なかった。
スネイプは初めに宿題の「月長石」のレポートを皆に返した。
ハリーのレポートは
が約束どおり彼に教えたこともあって、何とか「P」の成績が取れていた。
いつもの通り、ハーマイオニーと
は「A」でネビル・ロングボトムはまあ、今にも泣き出しそうな顔をしてるので
最低ランクの「D」だったのだろう。
「全般的に、今回のレポートの水準は惨憺たるものだ。これがOWLであれば、大多数が落第であろう。今週の宿題である「毒液の各種解毒剤」
については何倍もの努力を期待する。さもなくばーー」
スネイプのどんよりした黒い陰鬱な目が、スリザリン、グリフィンドールの生徒たちの間を彷徨った。
「「D」をとるような劣等性には罰則を科さねばならぬ。」
そこでスネイプは「何か裏工作をしてあの成績を取ったのであろう」という疑念の目つきでハリーを睨んだ。
「まあね、先週ほど酷くなかったわね。今日の薬は私たち皆、上手く出来たし。宿題もね。それほど悪い点じゃなかったのでしょう?ハリー、ロン。」
魔法薬学終了後、ハーマイオニーがうきうきするような顔で言った。
宿題もーといわれてロンとハリーは一瞬口ごもってしまったが、気にせずハーマイオニーは続けて言った。
「最高点は期待してなかったわ。OWL基準で採点ならそりゃあ、無理ですもの。
でも、もし「O」を取ってたら私ぞくぞくしたでしょうけど〜〜」
ハーマイオニーがチラッと男の子二人を見て言った。
「君、僕らの点が知りたいんだろ?だったらそういえよ」
ロンが声を尖らせた。
「いえ、あのそんなつもりじゃーー」
ハーマイオニーが口ごもった。
「僕は「P」だよ。これで満足?」
四人はいつの間にか大広間についていた。
「ハリーはどうだった?」
が期待をこめて聞いてきた。
「え?ああ、ロンと同じ「P」そんなガッカリした顔しないでくれよ。これでも頑張ったんだから」
ハリーが笑いながら言った。
「そうさ。何も恥じることないぜ。「P」ならご立派なもんだ。」
フレッドとジョージが連れ立って現れ、ハリー、
の両隣にそれぞれ座った。
「ねえ、OWLの基準って何段階に分かれてるの?」
が昼食のロールパンを一口づつ手でちぎって食べながら聞いた。
「う〜〜可愛いお嬢さん。君は今からそんなことで頭を悩ますことないんだぜ。」
ジョージがクシャクシャと大きな手で
の黒髪をなでながら言った。
「そうそう、今からOWLのこと考えてたら後で気が狂うぜ。まあ、質問には答えるよ。
基準は上から「O,E,A,P,D,T」意味は大いによろしい、期待以上、まあまあ、よくない」
「Tは何?」
ハリーが聞いた。
「T?Dより下があるの?ご冗談でしょう!?」
ハーマイオニーが軽蔑した口調で聞いた。
「どっこい、それが本当なんだ。Tとはトロールだ。」
ジョージがにやにや笑いながら答えた。
これにはハリー、ロン、
は思わず笑ってしまったが、ハーマイオニーはあきれかえって笑うどころではなかった。
「ところで君たちはもう、アンブリッジの授業査察を受けたか?」
フレッドが
の絹のような後髪を指でくるくると弄びながら聞いた。
「いいえーまだよ」
ハーマイオニーが即座に答えた。
「受けたの?」
「ああ、さっきね。「呪文学」さ」
「ね、どうだったの?」
ハリー、
が興味深々に聞いた。
「ぜ〜んぜん大丈夫だったさ。」
フレッドは肩をすくめた。
「アンブリッジが隅のほうでコソコソメモをとってたなぁ。フリットウィックはあいつを客扱いして平常どおり授業を続けた。
アンブリッジもあんまり何も言わなかったな。」
「そう、良かったぁ。私もあの先生は大丈夫だと思ったわ。」
が安堵して言った。
「次の授業は誰だ?」
ジョージが彼女の髪で遊ぶのをやめてハリーに聞いた。
「トレロー二ー」
「そりゃ確実に「T」だなっ」
ジョージが
、ハリーにコーンスープのお替りを入れてあげながら答えた。
「それにあのアンブリッジもだ♪」
フレッドがすかさず横から付け加えた。
午後からの授業は色んな意味で燦燦たるものだった。
まず、トレローニー教授はアンブリッジがすぐ側にいるのでそわそわと落ち着かなくなって、今にもヒステリーの発作を起こすのでないかと思われた。
マグゴナガルは明らかに彼女が気に入らない様子だったが、なんとか平常心を保って授業を続けた。
その次のハグリッドの代理教授のグラブリー・プランクの授業では彼女がアンブリッジの査察にそつがなく答え、全てが上手くいきそうに思われたがーーーーー
プランク教授がボウトラックルを連れてくる為に、その場から離れた後、アンブリッジはクリップボードとペンを持って、生徒の間を長々と歩き回り「授業をどう思うか?」などの質問攻撃をしていた。
「さてーーーこのクラスで誰か怪我したことがあったようですがーーそれは本当なの?」
アンブリッジはグリフィンドール生への質問を終え、今度はスリザリン生の間に来たところだった。
この質問にゴイルは間抜けな笑いを浮かべ、他のスリザリン生たちは嬉々として肩を寄せ合い、ひそひそと噂話をしはじめた。
「ふむむ・・どうやら本当のようね。」
アンブリッジは声のトーンを落とし、真剣にクリップボードに向かってメモ書きし始めた。
「先生、実は怪我をしたのは僕なんです。」
アンブリッジがメモ書きをやめ、いったん顔を上げたのを見計らってマルフォイがにやにやしながら答えた。
「んまぁ!それでーーそのときの状況を話してくれる?」
アンブリッジは驚きと哀れんだ目でマルフォイを見た。
「ヒッポグリフに切り裂かれました。いや〜あれは死ぬかと思いましたよ。」
マルフォイのニヤニヤ笑いがさっきより、いっそうひどくなった。
他のスリザリン生達はボードに走り書きしているアンブリッジに気づかれないように、忍び笑いを交し合っていた。
その様子を見ていた
は腸が煮えくり返った。
あの青白い顔に山猫のように飛びかかり、そのにやにや笑いを引っかいてやりたかった。
「違う!それはそいつが馬鹿でハグリッドが言ったことをちゃんと聞いてなかったからだ」
彼女が拳を握り締めて突っ立ていると、ハリーがずかずかとアンブリッジの前に割り込んで怒鳴った。
ロン、ハーマイオニー、
は呻いた。ああ、またーーーーーーーーーーやってしまった!
アンブリッジがゆっくりとハリーのほうに顔を向け手言った。
「もう一晩罰則ね」
「ほら」
ハーマイオニーが心配そうに言った。
ハリーは真夜中すぎにアンブリッジの罰則から帰ってきた。
「このマートラップのエキスに手を浸すといいわよ。」
「ありがとう。」
ハリーはハーマイオニーが持ってきてくれた、小型のボウルに出血して腫れ上がった可愛そうな手を入れた。
彼にとっては驚くべきことにロン、
も起きていて帰りを待っていてくれた。
彼は改めて持つべきものは彼らだな。と密かに嬉しく思った。
「私達、さっきまで相談してたんだけどーーー」
ハーマイオニーが燃え盛る暖炉の炎を見つめて口を開いた。
目が、(彼女が何か決断した時にそうなるのだが)爛々と鋭い光を放っていた。
「あの女はとんでもなく酷い人よ。私達、あの女の専制ぶりに対して刃向かわなきゃいけないわ。」
ハーマイオニーは決然とした口調で言った。
「僕は毒を盛れって言ったんだ。
だってルーピンのことでものすごく腹を立ててるしな。」
ロンが厳しい顔で言った。
「そうじゃなくてーー」
、ハーマイオニーが同時に憤るロンをなだめた。
「あの女は教師として最低!人間としてもどうかしてると思うわ。あの先生からは私達防衛なんて何にも学べやしないわ。」
が言った。
「そこで私、ずっと考えてたの。そろそろ潮時だと思ってね。やるのよーーー二人は賛成してくれたわ。」ハーマイオニーが言った。
「何を?自分たちであの女にどうやって刃向かうんだい?」
ハリーは怪訝そうに言った。
「あのねーー闇の魔術の防衛術を自分たちで自習するのよ!」
ハーマイオニーが嬉々として言った。
「あ、ちょっとタンマ!」
ロンが片手をハーマイオニーの前に突き出した。
「だけど、一つ問題点があるぜ。僕たちだけじゃたいしたことは出来ないんじゃないか??そりゃ〜図書館で本を借りてきてそれを試したり、
練習したりはできるよ。だーけーど」
「確かにね。彼の言いたいことは分かるわ。本だけじゃ駄目だわ。私たちに必要なのは先生。ちゃんとした先生。
呪文の使い方を教え、間違いをきちんと正してくれる先生。」
ハーマイオニーがロンの言葉をさえぎって言った。
「あ〜でもっルーピン先生はダメよ。騎士団でご多忙だと思うの。」
が気まずそうに言った。
「分かってる。彼のことを言ってるんじゃないの。それに無理に会うとしてもホグズミードに行く週末にしか会えないわ。それじゃとても十分な練習回数だと
言えないし。」
ハーマイオニーがフウッと大きなため息をついた。
「じゃあ、誰なんだ?
の伯母さん?あ、騎士団員だ。それともこの間のフェリシティー・
婦人?あの人は優秀なスパイだし。
今はホグズミードのレコード店に住んでる。あの人ならどうだい?
連絡は取れた?伯母(
婦人)さんと会うんだろ?」
ハリーは興奮のあまり、早口でしゃべりたてた。
「わからないの?」
ハーマイオニーはため息まじりに言った。
「私、あなたたちお二方のことを言ってるのよ。ハリー、
」
一瞬の沈黙の後ーーー
「ハーマイオニー?からかうのはよしてちょうだい!」
「そうだよ。何で僕たちが?僕たちは先生じゃないし、そんなことはーーー」
当の本人たちはゲラゲラ笑って聞き流そうとした。
「そりゃ〜いい名案だ。」
ロンはとうっと肘掛け椅子から飛び降りて言った。
「君ら以外に最適の人なんかいない!これは決定だ。僕は大賛成だ。ハーマイオニーもね」
ロンはにやりと笑ってハーマイオニーを見た。
彼女も深くうなずいていた。
「二人とも、「防衛術」で学年トップだったわ」
ハーマイオニーがびしりと言った。
「でも、ハーマイオニー!あなたのほうがずっとテストの成績はいいのよ!」
が負けじと言い返した。
「違うわ。よく聞いて!二人のこれまでやったきたことにはテストの成績とは到底、比較できないものがあるのよ!」
ハーマイオニーが声を荒げて言った。
「まず、一年、君たちは賢者の石を例のあの人から守った。」
ロンがすかさず口を挟んだ。
「だけど、あれは運がよかったんだ!
が助けてくれてーー」
ハリーが慌てて打ち消した。
「聞けよ!」
ロンが声を張り上げた。
「二年、君らはバジリスクを滅ぼして、リドルを滅ぼした。」
「そして、ジニーを助けた。」
ハーマイオニーがにっこりと笑って付け加えた。
「でもあれはーーフォークスとチャトランが途中で駆けつけてきたからーーーー!」
が言った。
「三年!」
「君らはディメンターを撃退し、シリウスの命を救った。」
「あれはまぐれだよ!ハーマイオニーの逆転時計がなければーーー」
ハリーが言った。
「まだ言わせるのか?よし、言おうじゃないか!」」ロンが二人の困惑しきった表情を見て、一段と声を張り上げた。
「去年!」
「君らは例のあの人を、再び撃退した。」
「やめてよ!!」
「やめろってば!!」
ハーマイオニー、ロンがにやにやして肘掛け椅子にもたれているので、二人は同時に切れた。
「いいか?僕がその場を切り抜けられたのは山勘と運のおかげなんだ!防衛術が素晴らしかったから切り抜けられたんじゃない!!
どれ一つとして計画的にやったんじゃない!!たまたま思いついてやったんだよ!それに土壇場に追い詰められた時はいつも
が僕のピンチを救ってくれたからなんだ!!僕のチャチな魔法なんかじゃ確実に死んでいた!彼女こそ先生にふさわしいよ!」
ハリーはいきりたって、ロン、ハーマイオニーにくってかかった。
「馬鹿言わないでよ!私一人が偉業を成し遂げたみたいな言い方しないで!!私みたいないつも誰かに守ってもらってる小娘なんてど
こにもいないわ!!
分かんないの!?私の魔法がすごいなんて思わないで!いつもいつも不完全な魔法で周りの人に迷惑かけてる私なんか!!
どこがいいのよ!?あなたみたいな勇気があって賢い人こそが先生になるべきだわ!!私はお断りよ。先生の器じゃないし、
不完全燃焼の魔法を教えて責任なんて取れないわ!」
はすごい勢いで、言いたいことだけいってしまうとフーンと怒って横を向いた。
それからロン、ハーマイオニーそっちのけでハリー、
の猛烈な言い争いは続いた。
彼女は山猫のように怒りっぽく、ハリーは頑固で切れやすく、どちらとも言い出したら聞かないタイプだった。
「いいかげんに引き受けたらどう!?私は責任取れないって言ってるじゃない!!」
「責任とれるとか、とれないとかはその時、考えればいいだろ!?何を恐がってるんだ?僕はダメだ!自信がない!!君がやれよ!」
両者はぜいぜい息をはずませ、お互いに意見を激しくぶつけ合った。
「おい、二人ともーーやめろよ」
ロンが仲裁に入ろうとしたが、二人は綺麗に無視して、言いそびれた続きをおっぱじめた。
「頑固者!何で分からないのよ!?」
「そっちこそ!意地を張るのをやめろよ!」
「もういい!聞きたくない!!」
「勝手にしろ!僕は引き受けないからな!!」
二人は猛喧嘩の末、ぷいっと反対方向を向きそれぞれ女子寮と、男子寮へと帰ってしまった。
「あ〜あ〜〜あれほど火花を散らすとは思わなかったぜ。」
ロンが疲れた顔で言った。
「仕方ないわ。あまりにも唐突なはなしだもの。二人にしたら寝耳に水よね。戸惑うのもわかるわ。」
ハーマイオニーはやるせない気持ちで窓からこぼれる月の光を見上げた。
「まあ、あの二人のことだからなんやかんや言っていろいろ考えてくれると思うよ。僕は。いがみあっても。」
ロンは楽天的に言った。
「さあ、それはどうかしらね〜まぁ、あの二人一週間は口聞かないんじゃないかしら?」
ハーマイオニーはえらく悲観的だった。