「両親にとってはこれほど出来の良い息子はいなかっただろうな・・・。」

シリウスは自嘲気味に笑った。

 「だが、私から見ればレギュラスは―――」

彼はそこでウッと言葉に詰まった。


「ただの哀れな大馬鹿野郎だ――」

彼はは苛立たしげに言った。

「死んでるんだ・・」

家系図の一番下のレギュラス・ブラックの死亡年月日(今から約十五年ほど前だ)を目にしながらハリーが言った。

「そう――死んだ。奴は――奴は―――驚かないで聞いてくれ――デス・イーターだった。」

その言葉にハリー、 は思わずヒィッと息を呑んだ。

まさか、こんなに近くの人間の家系からデス・イーターを輩出してたなんて――――――――

「信じられない!」ハリーが叫んだ。

「おいおい・・・今更驚くことじゃないだろう?これだけこの家を見れば私の家族がどんな家族だったか分かるはずだ。」

シリウスは苦々しげに言った。

「両親はデス・イーターではなかったが、ヴォルデモートの考え方に賛成だった。マグル生まれを排除し純血の者が支配することにね――だから初めのうちはレギュラスがデス・イーターに加わったことで

 狂気乱舞してたんだろう。」



「弟さんは何でこんなに早く死んだの?まだ相当若いのに」

が遠慮がちに聞いた。

「弟はヴォルデモートに殺された。彼は途中で自分のやっていることに恐れをなして身をひこうとした。

 しかし、一度悪事に手を染めた者は二度とそこから足を洗うことは出来ない。一生涯ヴォルデモートに仕えるかさもなくば死だ。」

「そっか・・そんなことがあったんだ・・・」

は声を詰まらせた。
「大変だったんだね・・シリウス」

ハリーはしんみりとなった。

その後、ウィ―ズリ―おばさんがお盆に山盛りにしたサンドイッチとケーキを持ってきて部屋に入ってきた。

腹ぺこで動けなくなっていたウィ―ズリ―兄妹はありがたや天の恵みと言わんばかりに、揃って盆の上からサンドイッチとケーキ

をひっつかみガツガツと口に放り込み始めた。

ハリー、 、シリウスはウィ―ズリ―おばさんからサンドイッチを受け取るとタペストリーの下に座り込んで

それを口にした。

「フィ二アス・ナイジェラス、曽曽祖父だ。アラメンタ・メリフルア・・・マグル狩りを合法化する魔法省省令を強行可決しようとした。

 伯母のエラドラーラだ・・・屋敷僕妖精が年老いて、お茶の盆を運べなくなったら斬首を行うという我が家の伝統

 を打ち立ててね・・従姉のアンドロメダ、トンクスの母親だ。彼女は私の好きな唯一の従姉だった。」


シリウスは食べ物を口に入れたまま喋るという、基本的なマナーを無視して延々と家系図について話し続けた。


二人にとって中でも一番、びっくりしたのはマルフォイ家となんと、ブラック家が親戚同士だったと言う事実だった。

は「どうしてもあの金髪と親戚だというイメージが結びつかない。」とはっきりと言った。

シリウスが「ほう?それはどうしてだ?」とあのグレーの瞳をくるくると輝かせて面白そうに尋ねた。

「だって、あの病的な青白さと嫌味な口調だけはどう逆立ちしたって、似ても似つかないですもの」彼女は正直に言った。

「確かにあそこの家族は全員パテを塗りたくったような顔だ。」

シリウスのその一言にサンドイッチを頬張っていたハリーは想像してブッと噴出しそうになった。

「ゴホッ、ゴホッ!」

「大丈夫?」

「笑かさないでよ!」

そう言いながらも彼の顔は可笑しそうにゆがんでいた。

「ほんとうにパテを顔に塗ってたりして!あそこの家族ならやりかねないわよ」

がクスクスと笑いを押し殺しながら言った。

それから話題はハリーの魔法省法廷での尋問に移った。

はここにハリーがどうやって来たかの経緯をロン、ハーマイオニ―から聞かされていた。

休暇中、ハリーが吸魂鬼がプリペッド通りに現れてそれを追っ払うために守護霊呪文を使用したことが

魔法界の法律に触れたのだった。

「まあ心配するな」

シリウスが明るく言い、ハリーの肩をポンポンと叩いた。

「法律は君の味方だ。国際機密保持法に自分の命を救うためなら魔法を使っても良いと間違いなく書いてあるからな」

シリウスは安心させるように言ったが、ハリーはひどく不安そうだった。

「大丈夫よ。退学になんかにならないわ。まったく――そんじょそこらの理由で退学、退学に追い込まないで欲しいわね。

 誰かこのやっかいな法律の改正をすべきよ!」

はハーマイオニ―みたいなことを言って彼を元気づけた。




サンドイッチをたらふくつめこんだ後での午後からの作業は相当集中力が必要だった。

一番初めにやっつけるてはずの、ガラスの飾り棚の扉の中にはへんてこりんなガラクタから、マンダンガス・フレッチャ―が大喜びで高く売り飛ばしそうな年代物の銀器や陶器までが

ところせましとぎっしりとつめこまれていた。



シリウスは嗅ぎタバコ入れに嫌と言うほど手を噛まれて気味悪いかさぶたを幾つも手に作っていた。

ハリーが手にした気持ちの悪い銀の道具は摘み上げると、蜘蛛のような足でがさごそと彼の腕を這いまわりグサリと突き刺そうとした。

その他、巻くと不吉な音を出して不思議に力が抜けて皆を眠りに誘ったオルゴール、誰も開けることの出来ない重いロケット、

古い印章と勲章が沢山入った箱、それらをシリウスは無造作に全部ごみ袋に投げ込んだ。


とジニ―は物珍しそうに純金の――柄に大きなサファイアがはめこめられた短剣を眺めて手に取っていた。

「このサファイア綺麗だわ〜こんなに年月を経ているのにちっとも色あせてないわぁ〜〜」

ジニーが嬉しそうに言った。

「ひょっとしたら呪いのサファイアだったりして♪知ってる?ブルー・サファイアは呪われた宝石で次々と

 持ち主が変わったことで有名なの。最後の持ち主は確か――そうそうフランス王よ」

が興味深そうに宝石を弄繰り回しながら語った。

、あまり触らないほうがいいぞ。」

「はいはい、わかってます〜」

彼女はいたずらっぽくシリウスに微笑むと柄にサファイアを戻し、短剣をごみ袋に投げ捨てた。


フレッド&ジョージはせっせと部屋の隅っこで戦利品?の嗅ぎタバコ入れをこっそりとドクシーで一杯のポケットに詰め込んでいた。

カンカラカララン!!

古い花器の中から大きな音を立てて金色の表紙の赤い帯で縛られた一冊の本が転がり落ちた。

「これ―――日記帳?」 が興味深そうにそれを拾い上げた。

、さっさと捨てたほうがいいわよ。誰かの書いた日記なんて今までロクなことがなかったじゃない。」

一緒に片付けをしていたハーマイオニ―が胡散臭そうな目でそれを眺めながら言った。(トム・リドルのことを言っているのだ)

「う、うん」

はごみ袋に入れるふりをしながら、ハーマイオニ―の目を盗んでそれをすばやくポケットにしまった。

(どうしてかこの日記だけはすごく気になった。)

それから数日間かけて客間、ダイニング・ルーム、その他の部屋の大掃除を皆は時々訪れた訪問客に手伝ってもらいながら

せいを出した。


マンダンガス・フレッチャ―は抜け目のない男でシリウスがごみ袋に投げ捨てたのをごそごそとあさって

マイセン、ウェッジウッド(左からオーストリア&イギリス製)の陶器、アウガルデン、マイヤー・ホーファー&クリンコッシュ(オーストリア製)の銀器で売り飛ばせそうなものを

さっとかすめとってズック地の袋に移し変え、屋敷から持ち去っていた。

ルーピン、ミナもこの屋敷に同居していたが、騎士団の秘密の任務でこの屋敷を空けていた。

久しぶりに屋敷に姿を現した時、ルーピンは柱時計の修理を手伝い、ミナは各部屋のベッド・メーキング、掃き掃除を行った。

「忙しいの?」

作業の休憩時に は、はっかと砂糖をきかせた冷たいジューレップの入ったグラスを手渡しながら聞いた。

「すまないね。思ったより仕事は多忙なんだ。この後もすぐに出発しなきゃいけない。あ〜あ、ここに住んでるのにシリウスより君と話す時間が少ないなぁ」

ルーピンは大階段に座り込んでグッとグラスを飲み干し、溜息をついた。

「私のことは気にしないで。それより体に気をつけてね」

彼女は新たに彼の目の周りを覆っている隈を眺めながら言った。

「ありがとう。ああっ・・もう行かなくちゃ。すまないな。ほんとに一緒にいられなくて」

彼は心底残念という表情で、クシャッと の髪を撫ぜると玄関ホールへと姿を消した。

「頑張って・・ね」

ポツンと一人取り残された は寂しそうに呟いた。




二階の客間の隣りのこぢんまりしたカード・ルームでは活気に満ちた笑い声が聞こえてきた。

「ああっ、チクショウ!クイーンが二枚だ〜残念!キングが出なかった」

「はい、あなたの負け。」

「あ〜やられた〜仕方ない、ジェーンとフレッドに2シックル!」

「儲けたな」


ペイシェンスという遊びで彼らはカードを次々とオープンしていき、美しい貝の彫刻を象嵌したテーブルに広げていた。

ゲームに張りを出すために、各自現在の持参金を少しばかり賭けることをフレッドが提案したのだ。



シリウスは賭けに負け続け、すっかり手持ちの金がなくなったのにも関わらず、吼えるような笑い声を上げていた。


屋敷の、開け放した勝手口の向こうにある花壇からはロン、ハーマイオニ―の声が聞こえてきた。

「ロン、遊ばないで雑草を抜きなさいよ!!ちっとも片付かないじゃない!」

「へいへい、わかってますだ!そうだ、えーとこれ、部屋に飾れば?この枯れちまった花壇の中じゃ唯一生き残っているユリだしな。」

「そうねーあ、ありがと。気が利くじゃない」

「どうも・・。」


あの調子だとおおかたロンはほのかに頬を染めて、はにかみながらシラユリを愛しのハーマイオニ―嬢に差し出しているのであろう。

 
(まったくあの二人ときたらお互い好き合っているのになかなか素直にならないんだから!)


は頬杖をつきながらクスリと笑った。


そういやあの二人はいつも一緒で、離れていたことなどまずないのだ。それでもって二人だけでダイアゴン横丁のパーラーでデートしたり、ホグズミードでは


の目の前で二人だけの世界を堪能していた。


(それに比べて私と先生は・・・。いつも、いつも会いたい時に会えない。愛情の裏返しで危うくお互いを死の危機に追いやったこともある。それは狼人間と吸血鬼の逃れられない運命なのだろうか?)


彼女はふとシリウスの熱烈な、またどこか切なそうに自分だけに向けられる眼差しを浮かべた。

(何故?何故?シリウスがこんな時に出てくるのよ!)

は苛ただしげに首をブンブンと振った。

(私と先生は深く溺れすぎてしまうと、心がボロボロに傷ついてしまう。でも忘れられないし離れることは出来ない。

 だけど・・・こんなに会えない生活が長く続くと私は、私は・・・。)


彼女はグッと拳を握り締めた。


(シリウスに心が―――心が―――――傾いてしまうかもしれない――――彼に心を奪われてしまうかもしれない。)


「私ったら何を――何を――馬鹿なことを!」

は自分の発した声でハッと我に返った。 

 
「心に間が、間が差すなんて!!全く・・ 、あんたはどうかしてるわ!!」

彼女はそう自分を叱りつけるとスカートの埃を払い、階段から立ち上がると二階の自分の寝室へと駆け上がっていった。







その晩、 は女の子二人が寝静まったのを確認すると、むくっとベッドから起き上がり、昼間頂戴した戦利品をローブのポケットをまさぐって取り出した。


ベッド脇の事務机に日記帳を置くとそうっと女の子達を起こさぬように静かに椅子を引いた。


(開けてみても大丈夫だろうか?)


日記帳をひっくり返すと裏表紙のところにブラック夫人の本名が黒インクで記されていた。


(他人の日記を盗み見るなんて――でも、この持ち主はもう何十年も前に他界してるし開けたってとやかく言われないわ!)


彼女は楽天的な思考で締めくくると赤い革帯を解き日記のページをめくった。


(何だ、何も書かれてないじゃない!)


は面食らって慌てて次々とページをめくってみた。


(この人、よっぽどの筆不情じゃないかしら?こんな立派な日記帳をもらっときながら何も書かなかったなんて!!)


彼女は呆れ果てて日記帳を閉じようとした。


「あれ、何これ?」

その時、日記帳の真中のページから色あせて黄ばんだ古い写真が滑り落ちた。

は興味深そうに拾い上げた。

それはブラック家の集合写真だった。

中央に若かりし頃のブラック氏と夫人、ブラック氏はシルクハットを小粋な角度でかぶり、手には蛇の頭の黒いステッキを持っている。


ブラック夫人は黒いカシミヤのドレスに胸元にはカメオのブローチを留めている。その隣りで仏頂面で膨れている学生時代のシリウス、


はなじみの顔を見つけたのが嬉しくて小躍りしそうになった。その横の人のよさそうな顔の人物はおそらく殺された弟のレギュラスだろう。


なかなか整った顔立ちだが、青白く気が弱そうで兄とはまるで太陽と月のようだ。


その他、黒髪の傲慢な若い女性、金髪の高慢ちきな女性(おそらくルシウス・マルフォイの細君であろう)それにマルフォイ氏やドラコまでいた。


弁護士のような風采の人物、宵の星のようにきらきらと輝く瞳を持った優しそうな栗色の髪の女性(何となく雰囲気がトンクスに似ているので母親であろう)性悪なニンフのような茶目っ気たっぷりの女の子(一目でトンクスだとわかった)


なるほどと は密かにほくそえんだ。

この写真を見ればシリウスが家名を毛嫌いする理由が分かる。

高慢ちきな夫人連中やえらそぶった紳士方といるのはさぞかし、自由奔放な彼には息が詰まることであっただろう。

顔を合わせるたびにこの連中はこぞってマグル狩り、純血、家系などの自慢話を―――シリウスが忌み嫌う話を額をつき合わせてしたのだろう。


この写真の中には純血の家系にそぐわぬ反逆者が紛れ込んでいると は写真を眺めながら思った。

弁護士風の人物はシリウスの叔父―アルファードではないだろうか?

アンドロメダと娘―トンクスはにこにこと笑っているがどことなく反逆者の雰囲気をかもしだしていた。

ウィ―ズリ―家はここにはいない。


ひょっとしたらモリーおばさん( はウィ―ズリ―夫人のことを愛称をこめて最近こう呼んでいる)

がミナに話したようにこの当時からイギリスを離れてアイルランドに住んでいたのかもしれない。



何も書かれてないと思った日記には最後の4、5ページだけ驚くべき事実が書かれていた。

それによるとマダム・ブラックは賭け事好きでしょっちゅう夫君の目を盗んでモンテカルロやラスベガスに足を運び、大賭博を打ったらしい。

赤裸々にジェニファーはシリウスの実の妹であるということ、彼女はラスベガスで、あるアメリカ人との間に出来た娘だという姦通の事実を書き記していた。


その他、最終ページにはブラック家の家紋を彫ったキー・ホルダーがページの四角い枠内に挟み込まれていた。


キー・ホルダーは細長い楕円形のロケットのような形をしていた。


彼女はそれを捨てるか捨てないべきか迷って手の中で転がし始めた。


ウー――――――ッ!!

「チャトラン?」ベッドの下で寝かせていた(白虎の姿に変身している)大きな物体が物凄い唸り声を上げた。

は慌てて日記をローブのポケットに突っ込みキー・ホルダーをナイトガウンのポケットに隠した。

「ひぃいっ!!お嬢様、すみません、すみません!」

「なんだ、クリ―チャ―じゃないの!泥棒かと思ったわ!」

彼女はあまりの驚きに大声で叫んだ。

「へぇ、へぇ、クリ―チャ―でございます。決してあやしい者ではございません。ですからお嬢様、どうぞその虎めを

 退けて下せえませ・・」


そう言ってクリ―チャ―はぶるぶると震え、媚びるような薄笑いを浮かべて彼女の顔を眺めた。


「お前は――夢遊病の癖でもあるようね。」

は怒りをつとめて抑えながら口を開いた。

「おとといの晩もレディ―の部屋に深夜入ってきて、いったい何をしてるの?え?何が望みなの?

 熟睡中のバンパイヤの心臓に杭でも打ちに来たわけ?」

と彼女は言い、まるで切り裂くような軽蔑の笑いを爆発させた。


「ちげぇます、ちげぇます。クリ―チャ―めはお嬢様に決してそんなことは致しません。そんな滅相もないことを―――

 ご主人様に殺されちめぇますだ。この間、お嬢様のことでクリ―チャ―めはご主人様に鞭で引っ叩かれました。」

「な、何ですって?今、何と言ったの?シリウスが鞭でお前を引っ叩いたって!?」

は鳩が豆鉄砲を食らったように目をぱちくりさせた。

「ああっ、今のは、今のは聞かなかったことにして下せえませ!ご主人様に誰にも言うなと口止めされていますだ!!

 お願げぇしますよお嬢様ぁ!!今までの無礼はお詫びしますだ!だからどうか他の連中やご主人様には言わないで下せぇ!!」

クリ―チャ―は牙をむき出している恐ろしい形相のチャトランを横目でこわごわと見入りながら豚のような鼻を床に押し付け、深深と頭を下げた。

「わかった、わかったわよ!もうそのみっともない姿はよしなさい!見てて気分が悪いわ!ほら、さっさと立ちなさないよ!!」

は苦い顔をし、ひとっとびでクリ―チャ―の側に行き、彼の肩をつかんで立たせた。

「言わないわよ、誰にも!約束は守るわ。さあ、私の癇癪玉が爆発しないうちにさっさとこの部屋から出なさい!!」

彼女は何故クリ―チャ―がこの部屋を訪れたのか尋ねるのも忘れて寝室のドアをそーっと開けてやった。

「ありがとうございますお嬢様、あの・・もう一つお願いがございますだ。」

「今度は何なの?」

は目をぎょろつかせて喋る妖精が気味悪かった。

「階下に、階下の食堂に、騎士団のメンバーが一人いますだ。そいつからお嬢様を呼んでくるように言われました。

 来て下せぇ。そいつはお嬢様を連れてこなければ、クリ―チャ―めを罰するとおっしゃいました。」

「はぁ?誰なの?こんな非常識な時間に私を呼ぶ輩は?」

はしかめっらをして暗い廊下に急いで出た。

「名前は申しません。ただ、お嬢様を連れてくるようにと――。」

クリ―チャ―は口ごもった。

「しょうがない、どうせ眠れないし行ってみてやるわ」

はナイトガウンの袖を捲り上げいきまいた。

「もういいわ。お前は上がって寝なさいよ。この先は私一人で大丈夫だから。」

彼女はポンとクリ―チャ―の肩を叩くと足早に階段を駆け下りていった。


しまった食堂のドアの隙間から細い光線がもれていた。

(誰だろう?中にいるのは?)

はおそるおそるドアを開いた。

彼女の目に飛び込んできたのは大テーブルに突っ伏してぐっすりと眠り込んでいるセブルス・スネイプの姿であった。

「スネイプ先生!?」

彼女は驚いて後ろのドアに倒れかかりそうになった。

(こんな時間に何の用だろう?)

はドアの取ってを片手で掴みながらぼんやりと壁掛け時計を見上げた。

時計は深夜の一時を指していた。

テーブルの上にはウィスキーの入ったデカンタと湯気の立ち上る紅茶の入ったポットが置かれてあった。

「スネイプ先生、起きてください。私を呼んだのでしょう!」

彼女はスネイプの肩を揺すぶった。

「うわぁ〜お酒臭い・・」

はうぇえっと彼から立ち上る強い匂いに吐き気をもよおした。

「ねえ、起きてくださいよ!」

彼女はさらに強く肩を揺さぶったが、ウィスキーが充分に効いているせいか目を覚まさない。

「もう、風邪引きますよ。こんなとこでうたた寝して!」

彼女は彼の耳元で大声で叫んで起きないのが分かるとナイトガウンを脱ぎ、彼の肩にばさりとかけてやった。


「あっ!」次の瞬間彼女は手首をぐっと捕まれあっという間にスネイプの腕の中に倒れこんだ。

「いい晩だな。 。」

スネイプは彼女の手首をつかんだまま、まるで雄猫のように意地悪く歯をむき出して笑った。

そしていやらしい目つきでパジャマ姿の彼女をながめまわした。

(この、この酔っ払いが!!こんな夜中に呼び出しておきながら失礼な!)

は心の中で罵言を吐きまくった。

「い、いつまで握ってるんですか!!離して下さい!!」

彼女は乱暴に手を振り解くと床に滑り落ちたナイトガウンを取り上げ、そのままスネイプの向かいの席にドサッと腰を下ろした。

「ご用件を伺いましょう。何故この非常識な時間に熟睡中の私を起こさせたんですか!?」

彼女は出来るだけ怒りを押し殺し、気持ちを落ち着かせるためにティー・ポットをひきよせカップにお茶を注いだ。

「熟睡していたのかね?ほう、我輩はここで君がさかんに二階で歩き回るのが聞いていたんだ。嘘をつかぬほうがいい」

彼はにやりと笑うとデカンタを取り上げ、グラスになみなみとウィスキーを注いだ。

「それより早く用件をおっしゃったらどうです!!」

彼女はしゃくに障って声がとげとげしくなった。

「まあそう怒らんでいい。ルーピンはここに帰ってきたかね?」

「いいえ、昼間出て行ったきり一度も戻ってません。」

「そうか――直接本人に渡してくれと頼まれたのだがな。」

スネイプは脂っこい黒髪に手を触れた。

「何のことです?」

「あやつの脱狼薬のことだ。お前の伯母からことずかったのだが戻ってないのなら仕方あるまい。お前に預けていこう。奴が戻ってきたらすぐに渡すように」

そういうと彼はローブのポケットから薬瓶を取り出し、彼女の手に押し付けた。

「ありがとうございます。わざわざ真夜中に持ってきて下さって」

は冷ややかに礼を言った。


「飲まないのかね?」

スネイプは彼女が先ほど注いだ紅茶を指差した。

彼女は返答のかわりにグッと一息にカップの中身を飲み干した。

「もう寝ます。お休みなさい。」

はガタリと音を立てて椅子を引いた。

「まあ待て!その神経の高まりぶりではすぐに寝付けまい――寝るのはまだ早い。座れ。座って愉快な議論でもやらかそうじゃないか。」

スネイプは素早く彼女の隣に来て無理やり椅子に座らせると、向かいの席に戻った。

「さて、さて、大掃除はおおかた終わったようだな。」

スネイプはひどく上機嫌で室内を見回しながら言った。

はスネイプの目が座っているのに初めて恐ろしくなり、観念してもう一杯紅茶を注いだ。

「現当主は毎日母親の肖像画と会話しているのであろう。騎士団のメンバーであるにも関わらず誠に気楽なご身分なことですな。」

彼は口をゆがめてにやりと笑った。

「シリウスは――」

彼女の唇がぶるぶると震えた。

「シリウスは遊んでるんじゃないわ。ダンブルドア先生が自宅謹慎の命令を出さなければ―――命の危険を顧みずに――

 騎士団の任務を遂行するでしょうよ!」

は怒って言った。

「ほう、誠に感銘を受ける話ですな。ところでミス・ 。屋敷の中で犬を二匹飼っているのはどんな気分かね?」


スネイプは妖しげな手つきでグラスに次から次へとウィスキーを注いだ。


「犬?犬ですって?何のことを言ってるんです!?」

彼女はわけがわからずにカップをガチャンと受け皿に置いた。

「わからないのかね?君にたいそう忠実なブラックとルーピンのことだ。」

「何てことを!何てことを言うんです!?スネイプ先生、いくら先生でもそこまで・・」

はかんかんになって椅子から立ち上がろうとした。(こんちくしょう!言わせておけば!)

「いいか、座れ!!その椅子からもう一度立ち上がってみたまえ――そうしたら――我輩から忠告しておいてやる。

 ブラックは危険だ。危険な男だ。奴に近づくな!」

スネイプは酒の勢いでだんだん声が荒くなった。

「どういうことです?前のことは(アズカバンのこと)すっかりけりがついたじゃありませんか!!

 それともまだ何か疑問な点が?彼が就寝中に私やハリーの首を斯き切る心配でも!?」

彼女はあざけるように言った。

「そのことではない!!前のことは合点がいかないが――それにポッターの名前を出すな!今この場で聞きたくないのだ。」

スネイプは苛ただしげにテーブルを思いっきり叩いた。

「奴は、お前に手を出すだろう、必ずな。断言しておく。」

彼は真剣に彼女の目を見つめた。

「手を出す?はっ?何をおっしゃってるか理解出来ないわ!!」 は叫んだ。

「ちゃんと聞け!そうなってからはもう手遅れなのだ!」

「何をそんなに恐れていらっしゃるのです?」

は苛苛して言った。

「お前は知らんだろうが、ブラックは異常なほどお前の母親に執着していた。デニス・ が母親の目の前に現れた時・・・」

スネイプは言葉をにごらせた。

「奴は荒れた。最後には杖まで持ち出してデニス・ と決闘したのだ。お互いに殺すつもりだった。それほど奴はお前の父親を

 憎んでいた。」

スネイプは疲れきった顔で腰を上げ、 の隣に来た。

「そういう恐ろしい輩なのだ。お前は母親に生き写しだ。奴は――」

スネイプは のふさふさと波打っている髪を撫でながら呟いた。

「また再び、母親がこの世に戻ってきたと狂喜してお前をこの館の女主人という最高の地位にまで祭り上げるであろう。」

「聞きたくない!!それ以上先生の口から聞きたくないわ!!私はシリウスの見たままの姿を信じます!」

は目をつぶり、両手で耳をふさいだ。

「今度こそお休みなさい!!とても愉快な議論でした!!」

彼女は椅子を蹴飛ばして立ち上がり、皮肉たっぷりな言葉を彼の目の前で投げつけると足音を荒げて食堂を出た。





 

 



「我輩は彼女に何と言うことを――――」


後にポツンと残されたスネイプは丸太で頭を殴られでもしたようによろめいた。 






久しぶりに書いたので、意味がわからないところがあるかもしれません。ようやくFLASHが使いこなせるようになりサイトの雰囲気もがらりと変わりました。次回あたりホグワーツ二戻らないと・・・。



 




 

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