罰則の後、四人組にとってこの上ない嬉しい出来事があった。梟小屋から談話室に戻るとワーーッという歓声が二人を迎えた。
ロンが、あのロンがーークィディッチのキーパーの選抜試験に合格したのだ。
「ハリー!やったぜ。僕受かった!キーパーだ!!」
「え?寝耳に水だよロン!わあーーすごい!」
「全然知らなかったわ!いつ受けたのロン?」二人は嬉しさと驚きのあまり、口をあんぐりあけてロンを詰問攻めにした。
ロンは大喜びでバター・ビールを二人に押し付けてきた。
「君たちが罰則を受けていた水曜日の晩だよ!僕合格するまで二人にはいっさい言うなって皆にいっといたんだ。アッと君たちを驚かせたかったからな!」
そういってロンは共犯者のハーマイオニー、その他の寮生のほうを照れくさそうに向いた。
「イェ〜〜イ!!ロン・ウィーズリーキーパー選抜万歳!!かんぱ〜〜い!!」
リー、ネビル、アンジェリーナ、フレッド&ジョージ、ケィティ、ディーン、シェーマス、バーバティ、ラベンダーが揃ってグラスを高々と上に上げた。
「ずるいよ〜私たちにだけ黙ってるなんて〜〜」
「そうだよ。嬉しくて僕なんて言っていいかわからないよ〜〜」
ハリー、
は口を尖らせたが、顔が笑っていた。
「さあ、着てみてよロン!オリバーのユニホームなんだ。あんたのサイズとあえばいいんだけど。」
アンジェリーナがニコニコ顔でロンを呼んだ。
その後、朝食を食べ終えて四人はハーマイオニーの梟が配達した新聞を抱えて湖に散歩しに行った。
「あ〜まだ宿題が何個か残ってるんだ。頼む!ハーマイオニー。ちょっとだけでいいから魔法薬学のレポート書くの手伝ってくれ〜」
「だめ!宿題は自分でやらないと」
「いやもう、ほんとに死にそうなんだ。ちょっとだけ、ちょっとだけ!」
ロンがハーマイオニーに頼み込んでいる。
「だめ!あなたこの間も私の写してたじゃない〜」
「じゃ、
。教えてくれる?」
「駄目だよ。僕が先約済み。」
ハリーがにやりとしてロンに言った。
「ねえ、これ「魔法省は信頼できる筋からの情報を入手した。シリウス・ブラック悪名高い殺人鬼・・・は現在ロンドンに潜伏中!」
ハーマイオニーが血相を変えて新聞記事を読み上げた。
「何だって!?シリウスの居場所がばれた?誰が通報したんだ!?」
ハリーが低い声で怒り狂った。
「わからないわ。信頼できる筋からってことは魔法省と相当深いーつまり長い付き合いのある人物じゃない?」
ハーマイオニーが言った。
「あのとき、シリウスが私たちを見送りにホームに出てきたのがいけなかったんじゃないかしら!?誰かーあれはシリウスだと見破ったんじゃないかしら?」
が不安そうにひそひそ言った。
「そんなハズないよ!シリウスが犬だと知ってる人物は・・・」
ロンが言いかけた。
「しっ!もっと静かな声で言ってちょうだい!」
ハーマイオニーがうめいた。
「ゴメン、えーとルーピン先生、それからスネイプ・・・」
「ぺディグリュー」
「え?」
ロンが
に聞き返した。
「忘れたの?肝心な人物よ。敵方で知ってるのはアイツだけよ。あいつはずっと昔から黒犬がシリウスだと知ってるわ。」
「そうーーだとしたら」
ハーマイオニーが声をひそめて言った。
「ぺディグリューがヴォルデモートや他のデス・イーターにシリウスの正体をしゃべっているかもしれない。
だったらあの時、プラットホームでハリーの肩に手をかけてた不自然な犬。あれが誰だか分かったとしてもおかしくないわね。
あの場所にデス・イーターの誰かがいたとしたら。」
「ああーシリウスの馬鹿・・・大馬鹿・・・」
は額に手をやってがっくりとうなだれた。
「つまり、もうシリウスは二度とあの屋敷を離れちゃいけないってことよ。ダンブルドア先生がおっしゃったとおり!」
ハーマイオニーがそう締めくくった。
「ちょっとおい!ハリーこれは何だよ!」
ロンが彼の左手にしてあった手袋を引っぺがして叫んだ。
「ここ一週間、おかしい、おかしいと思ってたんだよ!左手だけ絶対に手袋はがさないから!」
女の子たちが心配してかけよってきた。
「どうしたの?この長い切り傷。」
が彼の手をグッと上げさせて叫んだ。
彼の手の甲は「僕は嘘をついてはいけない」の血文字がくっきりと刻まれ、赤くみみずばれになって輝いていた。
「ちょっと切ったんだ。何でもないよ」
ハリーは無理に笑って手をひっこめようとした。
「嘘つかないでよ。あの性悪女でしょう!こんなことだろうと心配してたのよ!」
は恐い顔をして問い詰めた。
「ただの書き取り罰って言ったよな!?これのどこが?殺人的だぜ。」
ロンも詰め寄った。
「あの鬼婆!!」
ハーマイオニーがぶちぎれた。
「マグゴナガル先生のとこに行きなさいよ!あの女がこんなことやったって!!これがいい証拠だわ。訴えてきなさいよ!」
「いやだ」
ハリーはつっぱねた。
「僕を降参させたとあの女が満足するなんてまっぴらだ。」
「降参?こんな酷いことされてあの女を教師面させておくのか?虐待もんだぜ。」
ロンが怒鳴った。
「マグゴナガル先生があの女をどのくらい抑えられるか分からない」
「じゃ、ダンブルドアに訴えろよ!」
ロンは一筋縄では引き下がらなかった。
「ダンブルドアは頭が一杯だ。」
ハリーは言った。
もっともなその理由にハーマイオニー、ロン、
はまだまだ言いたいことがゴマンとあったが、言いそびれてしまった。
明けて日曜日は四人とも一日中、談話室にこもりきりった。
「ねえ、宿題は週日にもう少し片付けるようにしたほうがいいな。」
ハリーがロンに向かって惨めな気持ちで呟いた。
は最後の宿題に黙々と取りかかっていた。
「お〜い。」
彼女がすらすらと苦もなく、天文学の「木星の月の群れ」のレポートを書き上げていると
ロンがチョンチョンと彼女の肩を羽根ペンの後ろでつっついてきた。
「何?」
「あとでちょっとだけ写させて。」
ロンが拝み倒すような感じで頼んできた。
「駄目よぉ。ハーマイオニーからあなたはロンにいつも気前よく宿題写させてあげすぎだ!って言われてるんだからぁ。」
は困った顔つきで、ちらちらと横でとっくに宿題を終えて、居眠りしているハーマイオニーを見ながら言った。
「僕も頼むよ。ほかの宿題もあるから追いつかないんだ。ね?お願い?
。」
「ちょっとハリーまで・・・。」彼女は弱りきった。
「なあ、頼むよ!」
「お願い!」
「え〜・・もう、いいよ!でも全部写すのは禁止よ!あとで先生にバレルからね。」
は「え〜い、もうどうでもなれ!」という感じで木星のレポートの残り三行を大急ぎで書き上げると、二人に放った。
ロン、ハリーは「うまくいったな」と顔を見合わせ、にやりと笑い、そそくさと彼女のレポートを引き寄せて写し始めた。
午後11時過ぎーーー途中でハーマイオニーが見かねてロンとハリーの宿題を手伝い、ようやく片付いた。
ハリーが大あくびをしてうとうとと暖炉のほうに目をやったときーー
「シリウス?」
「寝言は寝てから言ってよ〜〜つ〜か〜れ〜た」
が馬鹿にしたように伸びをしたが、次の瞬間彼女は炎を見つめて息を呑んだ。
「シリウス!」
今度はロン、ハーマイオニーが叫んだ。
燃え盛る暖炉の炎の炎心にシリウスの首がくっきりと浮き出ていた。
濃い長い黒髪が笑顔を縁取っている。
「一時間ごとに暖炉を見て、皆がいなくなるより前に君たちが寝室に行ってしまわないか確認していたんだ。」
と炎の中の彼は言った。
「一時間ごとに?」
ハリーは半分笑いながら言った。
「もし誰かに見られていたら?」
が心配そうに言った。
「大丈夫。誰にも見られちゃいない。」
シリウスが安心させるように答えた。
「でも、シリウス、これはとてつもなく危険だわーーーー」
ハーマイオニーが上ずった声で言った。
「君、だんだんモリーに似てきたな」
シリウスが皮肉っぽく言った。
「ハリーの手紙に暗号を使わずに答えるにはこれしかなかった。暗号は解読される恐れがある。」
「手紙を書いたの?」
ハーマイオニーが詰るように言った。
「そんな目でみるなよ。ハーマイオニー。あの手紙からは誰も秘密の内容など読み取れない。そうだよね?シリウス。」
「ああ、あの手紙は上出来だった」
シリウスが満足げに笑った。
「手短に言おう。急いだほうがいいからな。君の傷跡だがーー」
「え?何のこと?」
「それがどうしたんだ?」
とロンが言いかけたが、ハーマイオニーが「黙ってなさい」とさえぎった。
「ああ、痛むのはいい気持ちでないのはよく分かる。しかし、それほど深刻になる必要はない。
去年はずっと痛みが続いていたのだろう?」
「うん。それにダンブルドアはヴォルデモートが強い感情を持ったときに必ず痛むと言っていた。」
ロン、ハーマイオニーがぎくりと強張るのを無視してハリーは言った。
「そうだろうな。あいつが戻ってきたからにはもっと頻繁にいたむことになるだろう。」
シリウスは顎に手を当てて考え込んで言った。。
「それからアンブリッジのことだがーーあの女は確かにいやな奴だ。ルーピンがあの女を何と言っているか聞かせたいぐらいだ。」
「先生はあの女を知ってるの?」
ハリーが聞き返す前に彼女が素早く口を挟んだ。
「いや」
シリウスが言った。
「しかし、二年前に「反人狼法」を起草したのはあの女だ。それでルーピンはほとんど就職が不可能となった。」
そうか、反人狼法を起草したのは、このドローレス・アンブリッジだったのかーーーーー!
まるでおこり(病気の一種)の発作のように、
の全身を強烈な殺人的な激怒が襲った。全神経が憎悪にうなった。
ハリーはルーピンが最近ますますみすぼらしくなっているのを思い出した。
そして、アンブリッジなど決して好きになるものか!と頑なに思った。
「狼人間にどうして反感を持つの?」
ハーマイオニーも「あんな尊敬できる人がどこにいるのよ!」と心中まことに穏やかでない思いで怒った。
「きっと怖いのさ。」
シリウスはハーマイオニー、
の怒った様子を見て微笑んだ。
「どうやらあの女は半人間を毛嫌いしてる。去年は水中人を一網打尽にーーというキャンペーンもやった。
水中人をしつこく追い回すのは時間の無駄さ。屋敷ではクリーチャーみたいなろくでもない野郎がうろちょろしてるのにな。」
ロンは思わず笑ったが、殺人的な怒りに駆られた
、別の意味で気を悪くしたハーマイオニーは笑わなかった。
「あの女の気まぐれな思いつきで法を作ってもらっちゃ困るわね。シリウス!そんな笑い事じゃないわ。
先生ったら去年、おととし、幾つもの職をクビになったと思うの?全く、今年、ルーマニアの正教会の司祭様が教会のオルガン奏者の後釜にでも
雇ってくれなかったらーーー先生、どうなってたか?」
が憤懣やるかたない気持ちで言った。
「それで、そこは今のところ大丈夫なんだな?」
シリウスが真面目な顔で親友のことを心配しながら言った。
「ええ、辞めさせられる心配はまず、ないわ。そこの司祭様とルーピン先生は古い知り合いですもの。何でも狼人間のことを一番最初に相談したのが
そこの司祭様なんですって。とても親切な方で私もミサのとき、会っているわ。」
は少し落ち着いてきたのか、ほっとした様子でしゃべった。
ほかの三人もルーピンの近況が彼女の口から聞けて、喜んでいた。
「話を元に戻すが、アンブリッジの授業はどんな具合だ?半獣を皆殺しにする訓練でもしてるのか?」
「そうなったら真っ先にあの女を殺るわね。」
「おいおい・・・」(彼女なら本当に殺りかねないだろうな・・・。)
の目がキラリと危険な光を放ったのをシリウスは見逃さなかった。
「とっ、とにかく」
ハリーが話の腰を折られたのを元に戻しながら言った。
「あいつは僕たちにいっさい魔法を使わせないんだ!」
「つまんない教科書を読んでるだけ」
ロンが横から言った。
「ああ、それで辻褄が合うな。魔法省内部の情報からよると、ファッジ大臣は君たちに戦う訓練をさせたくないらしい。」
「闘う訓練!?」
ハリーが素っ頓狂な声を上げた。
「大臣は僕らがここで何をやってると思ってるんだ?魔法軍団が何か組織してるとでも思ってるのか?」
「まさに、そのとおり。ダンブルドアがそうしていると思っている。というべきだろう。ダンブルドアが私設軍団を組織して、
魔法省と抗争するつもりだとね。現に元二重スパイの死んだと思っていた女が戻ってきたことだし。今頃、彼女を魔法省に潜入させて
内部の様子を探らせているかもしれない。」
「二重スパイって?前言ってたダンブルドアがヴォルデモートの情報を仕入れるために、あちこちに放ってたスパイのこと?
例えばースネイプみたいなやつのこと?」
ハリーが聞いた。
「分かったわ!数十年前の惨殺事件のことね?知ってるわ。後に語り草になるぐらい有名な事件。ママが置いてた古新聞を見たの。
ある中国人女性のうちに強盗が侵入して、女性とそのボディガード二名を惨殺したと。
そして、その女性の遺体とボディガード二名の遺体は見つからなかった不可解な事件。
彼女はディアヌ・クラウン・レコード社、社長のフェリシティー・ハーカー婦人であり、ダンブルドアの秘密スパイであった。
と確かこう記されてたわ。」ハーマイオニーがぶつぶつと呟いた。
「もうひとつ、重要なことを忘れてるぞ。」
シリウスがにやりとして言った。
「そしてその女はそこにいる
・ハーカー嬢の父方の伯母である」
「え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!?」
ロン、ハーマイオニーが「嘘でしょう!?」と叫んだ。
「本当だよ。」
ハリーがすまして言った。
「知ってたの!?」
ロン、ハーマイオニーが詰め寄った。
「うん、ちょっとね。話すと長くなるけど。」
ハリーは言った。
それから四人はシリウスからハグリッドのことを聞き出すことが出来た。
何でもマダム・マクシームと一緒に騎士団の仕事を遂行中ということだった。
「ところで次のホグズミード行きはどの週末かな?駅では上手く言っただろう?たぶん今度も」
「駄目!!」
ハリー、ハーマイオニー、
がきっぱりと制止した。
「日刊預言者新聞に書いてあったでしょう!我々は奴の居場所をーーって。」
ハーマイオニーが気遣わしげに言った。
「デス・イーターの誰かが−ーほら、シリウス私たちを見送りに来たときにホームにいて、正体を見破ったのよ。」
が苦しそうに言った。
「だからーシリウス。来ないで。あいつら今度こそ手がかりをつかんだって言ってるんだ。」
ハリーも言った。
「わかった。いいたいことはよく分かった。」
「ちょっと考えただけだよ。君が会いたいと思ってね。」
シリウスは酷くガッカリした様子でハリー、
を見た。
「会いたいよ。でもまた、シリウスがアズカバンに放り込まれるのは嫌だ。」
ハリーが切なそうに言った。一瞬沈黙が流れた。
しばらくして彼は重々しい口を開いた。
「君らは私が考えていたほど父親、母親に似てないな。」
「ジェームズ、エイミーなら危険なことを面白がっただろう。」
彼ははっきりと冷ややかに言った。