彼女は三日三晩、生死の境をさまよっていた。

あの満月の晩、黒い森での出来事で彼女は体内の半分以上もの血液を失った。

「奥様、嬢様は助かるのでしょうか?」

城の料理人のサロルタは涙を流しすぎて目が充血していた。

「分からないわ・・定期的に点滴で輸血してるけど・・今夜がおそらく峠だわ。いちおうあなたと私で付き添うことにするわ、いいわね

 それからのことは他の誰にも絶対にしゃべらないで!」

ミナは泣き崩れているサロルタに釘を指し、彼女の肩を抱いた。

「それにしても、まさかあなたがスクイブで本当にシリウスの妹だったなんてね」

急に険しかったミナの表情がやわらいだ。


「申し訳ございません・・今までずっと奥様に偽名を使い、嘘をついておりました。しかし、実は私自身は兄がいるなんて

 知らなかったのです。最近、モルドヴィツア修道院のシスターから真実を打ち明けられた時は本当に驚きました。

 彼女は私に正式な出生証明書を――今まで極秘に処分されていたと思われていたものを手渡してくれました。

 そこには、私の本当の家族、兄シリウス・ブラック、それからもう一人の兄、母、父のことと生年月日、出生地のことが

 書かれてありました。」

 
サロルタはすすり泣きながら、ミナに全てを告白した。

「兄は――シリウスの方ですが、今はアズカバンという牢獄から逃亡中だと聞きました。

 それでも私はいっこうに構いません。早く兄に会いたいです。だってようやく本当の家族が分かったのだから

 兄は今どのへんにいるのでしょうね?」

サロルタは昏睡状態の を見ながら、涙ぐんだ。

「さあ・・ね、でもいつかきっと会えるわよ。 からシリウスのことはよく聞いてるわ。

 あなたには話したかしら?今年、シリウスがピーターという男と入れ替わりにアズカバンに

 投獄されたということを。」

ミナは急に思い出したように言った。

「ええ、聞きました。お嬢様とハリー・ポッターのお陰で兄が無実だということが判明したそうですね。

 それ以来、兄とお嬢様はお互いにフクロウ便で連絡を取り合っているんですね。」

サロルタはそう言うと、ナイトテーブルに置かれたシリウス・ブラックからの手紙を愛しそうに眺めた。



室内には壁時計の音だけが響く。

ミナとサロルタは、ロザリオをこすり合わせ一心に の回復を祈っていた。


東の空から太陽が昇っても、ベッドに横たわった瀕死の彼女はピクリとも動かない。


・・・死なないで」



二人は祈りつづけた。

柱時計は午前九時を指していた。


!!気づいたのね!!」

サロルタとミナは嬉しそうにベッドに駆け寄った。

「伯母様、サロルタ・・私はいったいどうしたの?」

パチリとブラウンの瞳を開け、ようやく彼女は目覚めた。

「あなた覚えてないのね・・・」

ミナは悲しそうな、またほっとして呟いた。

「ねえ、何があったの?この傷痕は?」

は両腕に無数の傷跡があるのを発見して、不審そうにミナに尋ねた。

ミナとサロルタは気まずそうに黙り込んでしまった。

「話せない・・あなたには話せないわ・・」

ミナは目に涙を浮かべ、ドアを開け、走り去ってしまった。

「サロルタ、私に何があったの?ねえ、話して」

はベッドから彼女の服の袖をつかんだ。

「ゴメンナサイ・・お嬢さま・・私も何が何だかよくわからないんです!ゴメンナサイ!」

彼女は何度も頭を下げ、部屋を出て行ってしまった。

「ねえ、ちょっと!!・」

はベッドから起き上がり、二人の痕を追っかけようとしたが首に鋭い痛みが走り、ベッドに倒れこんだ。


彼女は首を押さえながら、ナイトテーブルにあった手鏡をつかんだ。

「何これ!?この傷!?何箇所も・・」

彼女は鏡に映し出された無数の牙の痕を発見した。

牙の痕は少なくとも首周り四箇所もあった。

彼女は慌ててこれまでの記憶を反芻してみた。


「えーとあの日、朝起きてそれから、リーマスの家に行って、ハリーにケーキを作って送ったよね。

 その後、城に帰って、確か夜中の十二時ごろ寝たでしょう。ダメだわ!それから何があったのか

 思い出せない!!まさか、思い出せないってことは・・・

 私、またバンパイアになって誰かに噛み付いてしまったんじゃ?そうよ、それしかない

 記憶がない時、前もそうだった・・・でも誰に、誰にかみついたんだろう!?

 落ち着け、落ち着いて考えなければ――どう考えても空白の時間はあの日の午前12時(就寝時)以降だわ。

 誰かに噛み付いたってことはまず城の人間ではないわ。執事はあの日いなかったし、料理人は全員女性だし。」

彼女はぶるぶる震える手を抑え、枕元にあったロザリオを掴んだ。

「落ち着かなければ!!あの日の朝、確かに脱吸血薬を飲んだ・・なのにバンパイアになって

 しまった・・そのことはおいといて・・まず考えるのは午前12時以降、私は何らかの原因で

 吸血鬼に変貌した。当然血が欲しくてたまらない・・だけど城内には血を吸うことの出来る人間が一人もいない!

 そこで私は城を抜け出し、血を吸うことの出来る人間を探して外へ出た」

彼女は手の震えが止まらなくなり、ロザリオをきつく握り締めた。


「いいわ、えーと黒い森を抜けて―抜けたら当然この下は村落よね。違う!」

手はますます小刻みに震えた。

「村落の前に家があった。黒い森の出口に。そう、リーマスの家!

 リーマス!?まさかリーマスを襲って噛み付いてしまった!?そうよ、血を吸えるのはこの辺りではリーマス

 しか考えられないわ。違う!あの晩・・思い出した!!あの晩は確か満月だった!!

 満月なんだからリーマスは狼になっている。だから当然、人じゃないから血は吸えない!!

 それにリーマスは脱狼薬を飲んでいると思うから、家で丸まってて外には出てないはずだし。

 いったい誰に、誰に噛み付いたんだろう?あっ!でもこの首の牙の跡、まさか、そんな・・

 この牙の後はリーマスが噛んだ後?では逆に襲ったのは私じゃなく、リーマス?

 いいえ、彼が薬を飲むのを忘れるはずがない!!だけどこの首の跡、どう考えても狼が噛んだ後みたいだし。

 それに両腕の傷・・どういうことなの・・」

彼女の手は今や完全に震えが止まらなくなっていた。





考えれば、考えるほど恐ろしくなってくる。

ちょうどその時、開け離された窓から梟が手紙を運んできた。

「ありがとう」彼女は梟を撫ぜた。

梟はホーと心配そうに鳴き、わざわざベッドで寝ている のところまでやってきて、手紙を彼女の手の中に落とした。



「リーマス・・・」

古ぼけた羊皮紙に黒いインクで書かれた繊細な筆跡が目に飛び込んできた。




、その・・何と言ったらいいのだろう?

賢い君のことだからあの晩何が起こったか、ミナから聞かなくてもおおよその検討はついていると思う。

私はあろうことか、脱狼薬を服用していながら、あの晩、君を襲ってしまったんだ・・・

意識が戻り、ミナに介抱され、君のことを聞かされた時、私は全てを悟った。

―あの一連の出来事について、君をあのような苦痛と危険な目に遭わせたことについて、深く恥じ、

 申し訳なく思う以外に、私には適当な言葉が見つからない――。

私は初めて出逢った時から、君のことが好きだった。しかしながら、私は今深く後悔している。

君と出会わなければよかった。君をこんな目に合わせてしまった。

男として、女性に決してやってはならない行為はどのように非難されても当然のことだと思う。


今はただ深く謝罪する以外、他の方法が見つからない。申し訳なかった。今後二度と君に逢うべきではないし、

逢うつもりも、もはやないだろう。


そこまで目を通し、彼女は呆然と息を呑み、大急ぎで続きを読み始めた。


君の回復を心から祈ります。もう私のことは忘れて欲しい。こんな酷い男なのだから。


リーマス



彼女は大きなショックを受け、枕に顔を埋めてさめざめと泣きはじめた。

「リーマス、ひどいんじゃない――あんなことしておいて今更、会いに来るなって言うなんて・・・

 何で今更好きだなんて言うの?今までどれだけその言葉を言ってくれるのか待ってたのに!!

 私の心の中にあれだけ深く入り込んでおきながら、

 苦しい時、悲しい時、いつも側にいてくれたのは誰?それなのに私から、逃げ出すなんて!!

 とてもじゃないけど出来ない相談だわ!!

 リーマス、私はもうあなたから離れられないのよ!この二年間、ずっと好きだったのに!!」


その日、彼女は首の痛みも忘れて泣き続けた。






ホグワーツへ戻る日が来た。


彼女の首の傷はすっかりと消え、体もまともに動かされるようになり血流もすこぶるよくなっていた。


は空港に行く前、リーマスの家に寄ってみた。

「リーマス!開けて!!いないの?」

彼女は拳でドアを叩いた。

ドアは施錠されており、家はシーンと静まり返っていた。

「リーマスはもうここにはいないわ」

後ろからカートを引っ張ってきたミナが声をかけた。

「伯母様!どういうことなの?彼がいないって?」

はミナに詰め寄った。

「彼は・・もう彼から聞いたでしょうけど・・彼はあなたにしたことを深く後悔して・・・

 アイルランドに旅立ったわ。もうここにはいられないって・・・ちょうど仕事も見つかったらしいの」

ミナは気まずそうに言った。

「つまり彼を完全に忘れろということね・・・」

の目があっという間に潤んできた。




 


所変わってキングズ・クロス駅――

は9と4分の3番線に停車しているホグワーツ特急に乗り込んだ。


混雑しているコンパートメントを潜り抜け、ハリー達がどこにいるか探した。

(去年はリーマスと一緒にここに乗ったっけ。リーマス、あの調子じゃ今年は手紙さえもくれないだろうな・・。

 リーマス・・完全に私から逃げたんだ)


ったら!!こっち、こっち!!」

右横のコンパートメントが開き、ハリー・ポッターが手招きしていた。

「ロン、ハーマイオニ―、 だ!!」

ハリーはコンパートメントの中に呼びかけた。

「うわあぉ!やっと会えたぜ! 」ロンが に飛びつこうとした。

「クィディッチのワールドカップにあなたが来られなかったなんて残念だわ!!侍女の方が

 手紙をくれたんだけど、あなたの伯母様が病気でずっと が看病してたんですって!

 大変だったでしょ?」

ハーマイオニ―がロンを横におしやって、彼女をぎゅーっと抱きしめた。

「え、ああ、そう、そうなのよ・・・残念だったわぁ・・アイルランドとブルガリアの試合見れなくて!!」はギクッとしたが、無理に笑顔を取り繕った。

(サロルタは私のことを一言も外にもらさなかったんだ・・・)

それと同時に、彼女は密かに、機転を利かして友人たちに手紙を飛ばした忠実な侍女に感謝した。



「マジですごかったんだぜ!ああ、 、ここに座って。ブルガリアのシーカーはかの有名なビクトール・クラムだ。

 知ってるかい?彼はさあ・・何だったけぇ?あ、そうそうウロンスキー・フェイントをアイルランドの選手にかけてさ。

 そらもうカッコよかったぜ・・・・」

コンパートメントに入ると、早速ロン・ウィ―ズリ―がせきを切ったようにベラベラとワールド・カップのことについて

しゃべりだした。

、この二人ったらヴィーラ、ブルガリアのマスコットが出てきたとき、何したと思う?

 彼女たちの美しさに見とれて、ピッチからスタンドに向かって飛び降りようと・・・・」

ハーマイオニ―がクスクス笑って説明しだした。

「わーっ、わーっ、頼むよ!!恥ずかしいからそれ以上言うな〜!」

ハリーとロンは大声を出して、ハーマイオニ―の声が に届かないよう妨害した。



それから延々とロンの解説で、ワールド・カップ談義は続いた。

「あ〜しゃべりすぎて喉かわいた〜あっ!いいとこに車内販売が来た!何かいる?」そこでやっとロンのワールド・カップの話は打ち切られた。


「あ、あのさ・・まだお礼言ってなかったね・・二人にはもう言ったんだけど・・

 バーズデー・ケーキありがとう!今年の誕生日はおかげで最高だったよ!!」

ハリーが彼女に嬉しそうに話しかけてきた。

「いえいえ」

は軽く会釈した。

「あ、あれルーピン先生と一緒に作ったんだってね。とっても美味しかったよ。

 ところで君とルーピン先生の家って近所なの?」

ハリーのこの発言でブーッとロンがカボチャジュースを噴出した。

「汚いわねえ・・ちゃんと吹きなさいよ!」

ハーマイオニ―がロンにハンカチを手渡しながら言った。


「でも初耳だわ。ルーピン先生と の家が近所だったなんて― 、今年はルーマニアに帰ったのよね?

 ほら、あなたの家がロンドン郊外とブカレストの二軒あるって聞いたから―ルーピン先生、お元気?」

ハーマイオニ―が嬉しそうに聞いてきた。

「えっ?ああ、うん・・まあ元気だけど・・・」

の顔が一瞬曇った。

「どうしたの?何かルーピン先生とあったの?」

すかさずハリーが彼女の顔色を察して聞いてきた。

「ううん・・何もないわよ!ただ・・先生、次の仕事が見つかったってアイルランドに行っちゃって・・しばらく

 会えないって・・」

の目にだんだん涙がたまってきた。

「なあ、本当にどうしたんだよ!隠すなよ・・ルーピン先生となんかあったんじゃないのかい?」

ロンまでが心配して、彼女の顔を覗き込んできた。

、隠さなくてもいいのよ!ただ先生がアイルランドに行ってしまったから、そんな顔してるんじゃないんでしょ?私にはわかるわ!先生と

 喧嘩でもしたの?」

ハーマイオニ―が優しく聞いてきた。

「な、何でもないわ・・そんなに心配してくれなくてもいいのよ!」

はグッと涙をこらえ、にこやかに笑った。

「そ、そう・・それならいいけど」

三人はそれ以上、聞きたいにも聞けず、お互いに顔を見合わせた。

それから四人は気を取り直して、ダンスパーティのことや各自持参したドレス・ローブのことについて盛り上がった。

「それ、そのレースとったほうがいいわよ。ロン!」

「そうよ!何だかかっこ悪いわ」

「僕、こんなん着るんだったら裸でいくよ〜」

ロンは顔を真っ赤にし、とハーマイオニ―はクスクスと
笑っていた。

ハリーはルーピン先生と の間にいったい何があったんだろうと一人悶々としていた。













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