は今、赤色のスーツの派手な夫人と向き合っていた。彼女はこの婦人と一緒に二階の螺旋階段を上ったのだった。
「会いたかったわ、
。何ヶ月ぶりかしらねぇ〜〜!!」
赤色のスーツの夫人、もとい、
の伯母はとても嬉しそうに目を細めて彼女を強く抱きしめた。
「私もよ、伯母様!!それにしても伯母様、大きなお店ね〜ホグズミードで一番大きいんじゃありません!?」
も歓喜のあまり、伯母の頬に軽くキスしてキャッキャッとつま先だってはしゃいでいた。
ひととおり再会の挨拶を終えると、二人は応接室兼社長室の豪華なソファに腰掛けた。
「ああ、あたくし気づかなかったわ。こんな可愛いお客様に何にもお出ししていないなんて!」
フェリシティーはハッと気づいて叫んだ。
「紅茶でいい?それともコーヒー?」
「紅茶をお願いします。」
「そうーそれじゃ」
フェリシティー伯母は立ち上がると、分厚い絨毯の上を歩いていき、刺繍を施したベルの紐を力いっぱい引っ張った。
「ミス・キムー紅茶二つをお願いね。それから何か摘む物があればもってきてちょうだい。」
彼女はそうベルに向かって言った。
数分後、階下のレコード店で働いているミス・キムが持ってきてくれた銀製のお茶セット一式で
二人は優雅に紅茶を頂いていた。
「さっきの人は中国人ですか?」
長い黒髪を後ろでくくっている女の人がお辞儀をして部屋から出て行った後、
は聞いてみた。
「いいえ、韓国人よ。一度魔法界を見てみたいと言ったから、現地(ソウル)から一緒に連れてきたの。海外留学ってやつね。
ちなみにここの店は支店舗よ。」
フェリシティーはカップを受け皿におくと、少し得意げに言った。
「本店は韓国、ソウル市にあるわ。私はそこで社長をしていたの。もう今は他の人に譲ったけどね。」
彼女はふとそこで寂しい笑みをもらした。
「もしかしてーもしかしてー社長をお辞めになったのは、ダンブルドア先生の私設スパイになったからですか?」
はそこで高みから飛び降りるような気持ちで聞いてみた。
「そうね、半分本当よ。」
フェリシティーは急に射るような目で窓の外を眺めて言った。
「父から会社を受け継いだのはいいけどー何だか自分の力でこの座を手に入れたって感じがしなくて嫌だったのね。
そんな時、ダンブルドアからお声がかかったわ。スパイにならないかってね。これこそチャンスだと思ったわ。初めは自分の運動神経を試したくて
やったわ。デス・イーターと接触したり、彼らの自宅から違法品を盗んだり、口封じのために殺したり、しまいめには「悪魔の女」だって世間から恐れられるようになったわ。
彼女と関わったら、最後には殺されるって。ダンブルドアには申し訳ないことをしたわ。情報収集のためといえども
何人もの人間を殺してしまったものね。」
は返す言葉が見つからなかった。スパイとはいえども、自分の伯母が人殺し、そして怪盗まがいの仕事を働いていたのだ!!
「なぜ、あなたに話す気になったのかしらね〜可愛い姪ならこのまま黙っておけたのに。
自分でも分からないわ。
。ああ。これで伯母さんのこと嫌いになったでしょう?
さぞかし嫌になったでしょうね。自分の身内が人殺しだなんて。」
フェリシティーはそこまで言ってしまうと、手で顔をおおい、おいおいと泣き出してしまった。
彼女はぼんやりと目の前で泣き崩れる伯母を眺めていた。
これがーーあのーーあれほど会いたかったフェリシティー伯母の実態なのだ!!
飛び道具を用いての殺し合い、怪盗まがいの仕事ーー全ての実態を知ってしまって彼女は唖然として口もきけなかった。
だが、いつもの楽天的志向が彼女の中で有利に働いた。
そもそも、この伯母をここまで凶行に駆り立てたデス・イーターの連中、ヴォルデモート卿に、伯母は見事に復讐の一矢を報いたのだ!
考えてみるがいい。ネビルの両親、そして、ハリーの両親、自分の両親、その他沢山の罪のない命をあいつは虫けらのように
拷問、惨殺したのだ!!奴らの全てに呪いあれ!!奴らこそ、唾棄すべき存在なのだ!
断じて、この伯母は人殺しなんかじゃない!!
はさめざめと泣き崩れている伯母を眺めながら、むくむくと新たに激しい怒りの炎が持ち上げてくるのを感じた。
今度は伯母がびっくりとして顔を上げ、めれめらと茶色の眼を怒りに輝かしている
を見つめる番だった。
まあ、この子はーーなんとデニスの怒った時にそっくりなことか!!!
しばらくして
は伯母の手を黙って取り、こう静かにささやいた。
「本当の人殺しはーーー善良ぶった人間の皮を被った、獣のような連中です。誰のことか分かりますね?
神様はちゃんとお見通しだわ。」
「ありがとう、ありがとう、
。ああ、あなたはとても広い心をお持ちね。お母様にそっくりだわ・・・」
フェリシティーは感激して彼女の手を握り締めた。涙で顔がぐちゃぐちゃになっていたが、目は嬉しそうに光っていた。
こんなはずじゃなかったーーー
は舌をかみしめ、顔をしかめた。こんな再会の仕方じゃなかったはずなのに!!!
そのころ、ハリー・ポッターは「ディアヌ・クラウン・レコード店」と大きな金文字の看板が建物の正面いっぱいにかかった
入り口に立っていた。
ゾンコの店でごっそりと買い物をし、もう何も見るものがなくなったのでここへぶらりと立ち寄ったのだ。
腕時計を見ると、12時を指していた。
長いな・・・彼はぼやきながらスッとレコード店内に入ろうとした。
「あら、ハリー?」
とその時、後ろから銀の鈴のような可愛い声が聞こえた。
「あ、えーと、君、チョウだったっけ?」彼はいきなり呼びかけられたので、頭をひねって名前を思い出そうとした。
「そうよ。こんにちは。ハリー。誰か待ってるの?」
彼に呼びかけられると、チョウの顔はほんのりと桜色になった。
「え、いいや、暇だからここに入ろうとしてただけ。君は?」
ハリーは黒髪をポニーテールにし、ややうつむいてじっと買い物袋を見つめている彼女を見た。
「わたし?私はーーー暇なのでこの辺を散歩してたの。そしたらあなたがそこにいたわけ。」
「へぇ〜偶然だね。あ、友達は?」
「マリエッタもその他の子も、今日は別行動。たまには一人もいいものよ♪」
チョウはそういうとクスリと笑った。
その時、急に突風が吹いて、ざーーーっと大粒の雨が降ってきた。
「う、わ、ふってきたな〜〜」
ハリーはチッと舌打ちした。
「あの、この先、喫茶店があるの。雨宿りにはもってこいだわ。一緒に行かない?」
ほつれ毛が顔にかかり、睫に雨のしずくが光ったチョウは、
とはまた違うほのかな色気があった。
「あ、うん、いいよ。ちょっとだけなら。」
ハリーは彼女の私服から除く色っぽいうなじから慌てて眼をそらして答えた。
二人はばしゃばしゃと雨水を跳ね上げ、通りの向こうの小さな喫茶店へと飛び込んだ。
「コーヒー二つ」
チョウは素早く席を確保し、店長に注文した。
ハリーは落ち着いてから周りをぐるりと見渡した。
せまっくるしくて、何だかむんむんする店だった。
何もかもけばけばしいリボンやフリルで飾られ、アンブリッジの部屋の雰囲気と酷く似ていていやな気分に襲われた。
そのうえ、カップルというカップルが店にあふれ、皆手を握り合って、あま〜いムードだ。
ハリーは途端に落ち着かなくなり、早々とおいとまする口実を考えていた。
彼は何気なくガラス張りの窓の外を眺めた。
隣の上品なゆったりとした感じの飲食店が見えた。
店先には赤、白、緑のイタリア国旗がかかげられ、葡萄樽が無造作に置かれている。
どうやらパスタの店らしい。
中にはワインをすすり、白と黒のチェックのテーブルクロスで食事をする陽気な客がそこかしこに見える。
今、窓際のテーブルに給仕が料理を運んできた。
ボローニャ風スパゲティ、バジリコとハナハッカで香りづけされた極上の鶏料理、そしてデザートにはチーズ。
赤茶色の髪の毛に赤のスーツをまとった派手な夫人が、フォークにスパゲティをからめ、さっそく頂いている。
その向かい側には、からめつくスパゲティにスプーンをあてがい、口に運んでいる素晴らしい黒髪の女の子。
え、
!?
ハリーは驚いて、ごしごしと両手で眼をこすった。
確かに彼女だ!その横にいるのはかの有名なフェリシティー婦人だろう。
全く、何て偶然なんだろう!彼女がこんな近くにいるなんて!!
ハリーの心臓は驚きで高鳴った。
「お待たせしました。」
その時、ウェイトレスが盆をささげもち、コーヒーを静かに二人の前に置いた。
「
・
がいるのね。」
チョウは通りの向こうを見て(ハリーの様子に気がついて)ちょっと残念そうに言った。
「え、ああ、ほんと偶然だよね〜」
ハリーはさっそくコーヒーに手を伸ばしながら、しどろもどろに言った。
「ねえ、二人はつきあっている・・の?」
チョウは勇気を振り絞って聞いてみた。
途端にハリーはげぼげぼとむせかえってしまった。
「な、な・・どこからそれを?ていうか、何でそんなことを聞くの??」
ハリーはハンカチで口をぬぐい、びっくりして聞き返した。
「レイブンクローにいてもあなたの噂はたびたび入ってくるわ。マリエッタがそう言ってたの。それから私の他の友達も。ねえ
ほんとなの?」
チョウはこんなことを本人に聞くのは失礼だと思ったが、礼儀よりも好奇心のほうが勝っていた。
「何で、君にそんなこと話さなくちゃいけないんだ?いきなりそんなことを聞くなんてーーー失礼じゃないか」
案の定、ハリーは不機嫌な口調で言い返し、むっとしながらコーヒーを飲み始めた。
「失礼なことはわかってるわ!!」
ガタンとコーヒーを受け皿に戻して、チョウは声を荒げた。
「わかってるわ・・・でも、ずっと前から気になってたの。皆が根や葉をつけて噂を広めてるし・・」
その声に店中のカップルが振り返った。
「お願い・・答えて欲しいの。」
チョウはしょんぼりとうなだれて言った。
「君に言う必要はないよ。」
ハリーは顔を真っ赤にしながら言い返した。
「気になるのはーー」
チョウが声を振り絞った。
「あなたが好きだからよ!!!」
「