日曜の朝、
はベッドから起き上がれなくなった。
昨日の大広間での自分とハリーが名前を呼ばれたときの、皆の凍りつくような目線――絶えがたい沈黙――――
考えただけでも頭が痛い。今朝大広間へ降りていったらグリフィンドール生はともかく他の寮生はどんな顔をするだろう?
卑怯者、ペテン師――そんな悪態があちこちから飛んできそうだ。
「
、起きられる?朝食持ってきてあげたわ。ちょっと散歩しない?」
彼女が羽根布団を頭までひっかぶり、うとうととしているとこんがりと焼けたトーストのいい香りとハーマイオニ―の優しい声が
聞こえた。
「うん・・ありがとう・・すぐ起きるから・・・」
はその声にホッとし、ごそごそとベッドから這い出した。
制服に着替えてボサボサの髪を溶かすと、彼女はルーピンからもらったツインスターを身につけた。
女子寮の出て、ハーマイオニ―と一緒に階段を駆け下りると、階下にはハリーがいた。
「おはよう、
、ああ、君もゆうべよく眠れなかったようだね」
彼は目の下にかすかな黒い隈が出来ている彼女を心配そうに見た。
三人はグリフィンドール塔を抜け、すばやく玄関ホールを通り、湖に向かって急ぎ足で芝生を横切った。
ハリー、ハーマイオニ―、
はトーストを頬張りながら歩きつづけ、湖の岸辺につくと
二人はハーマイオニ―に何が起こったかありのまま話した。
「私はあなた達がゴブレットに名前を入れたんじゃないってもちろん分かってるわ」
ハーマイオニ―は二人の話を聞き終わると、率直に意見を述べた。
「でもいったい誰がゴブレットに名前を入れたかのかしら?生徒にダンブルドアを出し抜くことも、
ゴブレットを欺くことも出来やしない・・」
ハーマイオニ―はちょっと考え込んで言った。
「ねえ、ロンを見かけたかい?」
ハリーが聞いた。
「彼、その・・何て言ってた私達のこと・・」
もちょうどそのことが気にかかっていた。
「ええ、朝食に来てたわ」
ハーマイオニ―は口ごもった。
「彼、僕達が自分の名前を入れたってそう思ってるの??」
ハリーは聞いた。
「そうね・・ううん・・そうじゃないと思う・・そういうことじゃなくて」
ハーマイオニ―が言葉を濁している。
「そういうことじゃないって?どういうこと?」
ハリーは更に聞いた。
「あ〜あの〜たぶん彼は私達に嫉妬してるんじゃないかな?」
がピンときて言った。
「嫉妬してる??ロンが?まさか!」
ハリーが
に驚いて言った。
「何に嫉妬するんだ?全校生の前に笑いものになることをかい??」
ハリーがちょっと怒って言った。
「あのね・・注目を浴びるのは、いつだって、あなた達だわ。
はわかってるわよね」
ハーマイオニ―はここで
の方を見た。
彼女は黙ってこくりと頷いた。
「ロンは家でもお兄さんたちと比較されてばっかりだし、あなたはロンの一番の親友なのに、とっても有名だし――
皆があなたを見るとき、ロンはいつでも添え物扱いだわ。彼はずっとそれに堪えてきた。
一度も嫌な顔しないでね。でも、たぶん今度という今度は限界だったんだわ。」
ハーマイオニ―はハリーに分かるように辛抱強く説明してあげた。
「やめてくれ・・僕が好きで目立ってると思うか?この傷のせいでどこへ行っても皆がじろじろと額を見るんだ。
ロンに言ってくれよ。いつでも代わってやるとさ。」
ハリーは苦々しげに言った。
「私は何にも言わないわよ・・自分でロンに言いなさい。」
ハーマイオニ―がきっぱりと言った。
「そう・・私も悪いけどそれが最善の方法だと思うわ。」
もその時同じことを考えていたので、彼女に賛同した。
「ちっ、いっそのこと僕が首の骨でも折ればいいんだ。そしたら彼が少しは僕を哀れんでくれるだろうさ!」
ハリーはムカムカして悪態をついた。
「ちょっと、そんな縁起でもないこと言わないでよ!」
がびっくりして彼を見た。
「そうよ、馬鹿なこと言わないで」
ハーマイオニ―も冷静に言った。
「ねえ、二人共、私考えてたんだけど、城に戻ったら、ハリーはシリウスに、
はルーピン先生に手紙を書くのよ。
今は緊急事態よ。」
ハーマイオニ―がそういって、二人にペンとインクと羊皮紙を渡した。
「やめてくれ―シリウスにこんなこと書いたら、彼-本気で城に乗り込んで来るぞー」
ハリーは悲痛な声で言った。
「わ、私もルーピン先生とはちょっと・・・」
も言葉をにごらせ、うつむいた。
ルーピンとは今、音信不通状態なのだ。
「馬鹿ねえ・・どうせお二人にはわかることよ・・この試合は有名だし、あなた達も有名。
日刊預言者新聞に試合出場のことが載るでしょうよ。だから、あなた達の口から
お二人共、直接聞きたいはずだわ。絶対そうに決まってるもの」
ハーマイオニ―は真剣に今ひとつ気乗りしない二人を説得した。
ハリーと
はしばらく難しい顔をしていたが、ようやく重い腰を上げふくろう小屋へ向かった。
二人は早速、壁にもたれ何かぶつぶつと呟きながらシリウス、ルーピンへの手紙を書き始めた。
親愛なるリーマスへ
今年、ホグワーツで「三大魔法学校対抗試合」が行われます。
土曜日の夜、私とハリーが四人目の代表選手に選ばれました。
誰かが私と彼の名前を「炎のゴブレット」に入れたのです。
私とハリーは―――もちろんゴブレットに名前など入れていません。
私はすごく不安です。胸騒ぎもします。
今 どこにいるんですか?
なぜ、私を忘れることが出来るの?リーマスには簡単なことなの?
こんなにつらい思いをさせて――
涙が出るじゃないの。私の切なる願い。どうか戻ってきて。
私から逃げないで。
あなたの
は何とかしてリーマスの頑なな心を揺り動かそうと、必死で文面を考えた。
最後の方は涙がはらはらと零れ落ちて、詩みたいな文章になった。
「書けたわ」
彼女はグッと袖で涙を拭き、とっくに手紙が書き終わったハリー、ハーマイオニ―の元へ行った。
ヘドウィグがスーッと降りてきてハリーの肩に止まった。
「おまえを使うわけにはいかないんだ――シリウスにヘドウィグは二度と使うなと言われたからね」
ハリーは沢山止まり木にいる梟を見渡しながら言った。
「私のカラスを使えば?まだ一度も使ったことないでしょう」
は羊皮紙をくるくると巻きながら、言った。
「それいいね。じゃあ有難く拝借させてもらうよ。
は代わりに僕のヘドウィグを使っていいから。」
ハリーは彼女のルーピン宛の手紙の内容が気になるのか、じーっと見ていた。
それから二人はカラスと梟に手紙を括りつけ、空へと飛ばした。
ハリーと
が代表選手に選ばれてから、二人はグリフインドール生以外の寮生の好奇と中傷の目にさらされることとなった。
ハッフルパフ生はグリフィンドール生全員に対してはっきりと冷たい態度に出たし、レイブンクロー生も有名人二人が
ゴブレットを騙して自分の名前を入れたと思っているようだった。
スリザリン生はドラコ・マルフォイとその取り巻き以外の人間(このグループはハリーに対してはいつもどおりのいやーな態度をとったが)が二人にさんざん嫌がらせをしてきた。
などはあまりの嫌がらせにつらくて、ある日、寮の談話室に帰ってきて泣き出してしまった。
(この時は居合わせたフレッド&ジョージ、ハーマイオニ―、ネビル、ハリーが慰めた)
その後、フレッド&ジョージは糞爆弾を持って、人込みの中でスリザリン生にかなりの量を投下した。
一方、もう一人の代表選手セドリック・ディゴリ―はあのビクトール・クラムに負けず劣らず熱心な女子学生のファンが
周りをいつも取り巻いていた。
彼は鼻筋がすっと通り、黒髪にグレーの瞳のずば抜けたハンサムで代表選手にぴったりのはまり役だった。
呪文学終了後―ハリー、ハーマイオニ―、
が教室から退出した時、たまたま側をセドリック・ディゴリ―とその
取り巻きが通りかかった。
セドリックは
の姿を見ると、嬉しそうに声をかけようとしたが、取り巻きの女子学生に怖い目でぎろりと睨まれ
声をかけられなかった。
ハリーは内心、セドリックが
に声をかけられなかったことをいい気味だと思った。
午後からの魔法薬学の授業は拷問に等しかった。
昼食の後、ハリー、
、ハーマイオニ―が地下牢のスネイプの教室に着くと、スリザリン生が外で待っていた。
全員、一人残らず胸に大きなバッジをつけている。
「セドリック・ディゴリ―を応援しよう―――」
バッジには赤い蛍光色でデカデカと大きな文字が書かれていた。
「ポッター、これだけじゃないんだ。ほら!」
マルフォイと他のスリザリン生がバッジを胸に押し付けた。
「汚いぞ、ポッター」
さっきの赤い文字は消え、緑の蛍光色の派手な文字が浮かび上がった。
スリザリン生全員が大爆笑した。
「あらーとっても面白いじゃない」
ハーマイオニ―がパンジー・パーキンソンとその仲間の女子学生がつけている派手なバッジを目に留めて
皮肉たっぷりに言った。
「ほんっとうに洒落てるわ」
「おい、何でこんなものまで作ったんだ?」
心底焦った顔でドラコがパンジーのバッジに目を留めた。
「私あの子嫌いなのよ。だからポッターと一緒に祭り上げてやろうと思ってーいい気味だわ」
パンジーはフンと鼻を鳴らし、嫉妬に燃えた顔でドラコに言った。
「やめろ・・彼女は関係ないだろ!手を出すな・・あっ!」
ドラコが小声でパンジーにひそひそ言ってると、ものすごく冷たい顔をした
がパンジーの胸からバリッとバッジをはがしとった。
「面白い?そう――さぞかし面白いでしょうね。私を侮辱して。」
の怒りは今や頂点に達していた。
「汚い女―
」
彼女は大声でバッジに書かれた名前を読み上げた。
読み終わると彼女は床にバッジを叩きつけ、ブーツのかかとで粉々になるまで踏みしだいた。
一瞬辺りは凍りついた。
ドラコはもう穴があったら入りたいという顔をしていたし、パンジーや他の女子生徒は急に怖くなって押し黙った。
ロンは遠くの方でディーンとシェーマスと一緒に壁にもたれて様子を伺っていたが、いつものように
二人のために突っ張ろうとはしなかった。
ハリーは幾日にも渡って、たまっていた怒りがついに爆発した。
ハーマイオニ―も今度という今度は我慢ならなかったらしい。
二人はほぼ同時に杖に手をやっていた。
生徒達がおっかなびっくりして、慌てて廊下の隅へと移動した。
「ちょっと・・ハーマイオニ―?」
は親友の態度にすっと怒りを忘れ、あっけにとられた。
ハリーはマルフォイに―ハ―マイオニ―はパンジーに真っ直ぐに杖を突きつけていた。
「やれよーポッター、やれるもんならやってみろ」
マルフォイが杖を取り出した。
「あんたに出来んの?グレンジャー。」
パンジーも杖を取り出した。
それぞれの目に火花がバチバチと散った。
「足呪い!」「髪呪い!」
「歯呪い!」「鼻呪い」
二組はもっとも手っ取り早い呪文を唱えた。
呪文は空中で跳ね返り、折れ曲がって、跳ね返った。
ハリーのはパンジーに、マルフォイのはハーマイオニ―に、ハーマイオニ―の光線はハリーに、パンジーのはマルフォイに命中した。
パンジーは両手で顔を覆って喚いた。
醜い大きなできものがブツブツと鼻に出来ていくところだった。
ハーマイオニ―は呪いのせいで前歯がわっと急激に成長し始めた。
ハリーはすごい勢いで前髪、後ろ髪がわんさか伸び始め、マルフォイは足がにょきにょきと伸び、どんどん天井に向かって伸びていった。
その後、彼ら四人は騒ぎを聞いて駆けつけてきたスネイプに医務室に行くように命じられた。
スネイプはマルフォイ、パンジーだけの言い分を聞き、ロン、ハリーのことは綺麗に無視した。
マダム・ポンフリーは異様な姿の四人を見て呆れに呆れたが、それでも何も聞かずに黙って処置してくれた。
彼女はまず、鋏を持ってきてハリーの髪を綺麗に切ってくれた。
「髪呪いはまだよかったものの――他の呪いはしばらくかかりますよーまったく四人も揃いにそろって」
彼女はパンジーの鼻の頭に特殊な液を塗りながらぶつぶつと言った。
ハリーがマダムに礼をいい、ちょうど医務室を出たところでこっちに向かって走ってくる
の姿を見つけた。
「ハリー、ハリー、どうしてあんなことしたの?呪いはもう取れたの?ハーマイオニ―は??」
は心配そうに聞いた。
「我慢できなかったんだよ――あいつ、僕だけじゃなくて君まで侮辱して!そしたらカッと頭に血が上って
止められなかったんだ。ハーマイオニ―は大丈夫だよ。、マダムが処置してくれてる。
君は?何で途中で魔法薬学を抜け出せたんだい?」
ハリーは聞いた。
「ああ!それそれ!急がないと!さっき教室にコリン・クリ―ビーが来てね、代表選手は一階の変身術の教室に集合
だってーそれで抜け出してきたのよ。だけどハーマイオニ―が気になるなあ」
は10メートルほど先にある医務室のドアを眺めながら言った。
「後で会いに行こう。他の代表選手を待たせちゃ悪いよ」
ハリーは向こうの廊下からこちらに「早く!早く」と合図しているコリンを見て言った。
コリンと共にハリー、
は階段を駆け下り、一階の教室に到着した。
「ハリー、
、頑張って!」
教室のドアを開けると、後ろからコリンの声が聞こえてきた。
中にはフラー、セドリック、クラムそれにバグマン氏と中年のカメラマン、赤紫色の派手なローブを着た魔女がいた。
セドリックは
シシ―
が入ってくるのを見ると、にっこりと微笑んだ。
「ああ、やっと来たね。代表選手のお二人!あと数分で杖調べの儀式をやるよ。」
バグマンがハリー、
に近づき安心させるように言った。
「それから、ちょっと写真をとることになるがねーおおっとご紹介しよう。このご婦人はリータ・スキータさんだ。」
バグマンは自分の隣りにいた赤紫のローブの魔女を指しながら言った。
「ルード、儀式が始まる前にちょっとこのお二人とお話していいかしら?
最年少の選手なんざんしょ?」
リーター・スキーターはバグマンに早口で聞いた。
「ああ、かまわんよ」
バグマンは中年のカメラマンに声をかけられ、向こうのほうへ行ってしまった。
「あ、あのー」
ハリーが「けっこうです」と言う前にリータは二人を教室のドアへと強引に押していった。
それからリータは近くの空き部屋に
とハリーを押し込み、延々と試合のことについて二人を質問ぜめにしたのであった。