幻狼と別れたたちは、死者を蘇らせる者がいるという長江を目指して旅していた。

「美朱さん、けっこう歩きましたけどお疲れになりませんか?」

星宿が綺麗な川の浅瀬で水をくんできて水筒を美朱に渡すのと

同時にがやってきて言った。

「ううん、大丈夫だよ。、幻ちゃんとこで一杯食べたらまだ元気、元気!」

「そうですか・・あ、」

彼女は巫女が薄紅色の紙を一心に読んでいるのに気づいた。

「それは山賊のところで、私達を助けてくれた鬼宿からの手紙ですか?」

彼女は巫女の側にしゃがみこんで尋ねてみてみた。

「うん、彼は今、ちょっといろんな事情があって倶東国に囚われてるけど

 朱雀七星士全員揃えたら帰ってくるって約束したの。これはその前夜に

 彼が書置きした手紙、大事に持ってるんだ!」

美朱はそういって、けなげに笑った。


「我愛弥・・羨ましいな、誰かにこんなに愛してもらえて・・」

「ね〜、、あなたは誰かを好きになったことある?」

美朱はそこでにっこりと人を和ませるような笑みを作って、に問いかけた。

「え?ああ、ありますよ、もちろん」

彼女はぎくりとしたが、この自分より年下の可愛らしい朱雀の巫女様の問いに答えてやることにした。

「私が愛したのは、同じ七星士の婁宿という方です。濡れ羽色の黒髪にちょうど長さは星宿様と同じぐらい、背丈も、そう、同じぐらいでした。

 穏やかで優しい人でした」

「へぇ〜ね、ねぇ、とはその後どうなったの?」

美朱は相当興味をそそられたらしく、突っ込んで聞いてきた。

「その人は、別に愛する人がいました。それ以上発展はなかったのです」

彼女はそこでとても寂しそうな笑みを浮かべた。

「この話はこれで終わりにしましょう。巫女様を楽しませるような話ではないですし」

彼女はそれ以上古傷に触れられるのが嫌なのか、さりげなく話を打ち切り、その場を立った。



カラスがやかましく鳴く紅南国の北――長江の町はうらさびれており、異様な雰囲気が漂い、死臭がたちこめていた。


現に今も、達の側を次から次へと死人を乗せた荷馬車が通り過ぎていった。



「この町は・・邪気が立ち込めている」


が黒絹の服の袖で鼻を押さえ、眉をひそめて言った。


「まさかこんな状態になっていようとは・・」

星宿も、自分の国土が酷く荒廃していることに愕然としていた。


「美朱、ちゃん、星宿様!見て、鏡が反応してる」

その時、柳宿が声を上げた。

すると彼女が持っていた紅色の手鏡の中に「癒」という文字が浮き上がっていたのだった。

その後、たちは「少華」という死者を生き返らせる能力を持つ美しい女と

無事に出会うことが出来、彼女が家々を回り、死人を生き返らせるのを

直々に見ていた。


朱雀の巫女はこの都から出られないと言い張る少華の為に、幻狼のもとから先代の棺を

直接持ってこさせることを約束し、一旦、長江の町を出ることにしたのだった。







「どーやらここお墓みたいですよ」


柳宿の声で、たちは辺りを見回した。


わびしい裸の木に囲まれた森に差しかかった彼らは、道を間違え、墓地に出てしまったようだった。

木の皮が木枯らしに乗って、すーっと舞い上がっていった。



「気味が悪いところだ・・ここは町より邪気が強い」


が馬の足掻きを緩め、厳しい顔つきで言った。


「そうだな。すぐ引き返そう」

「そんな暇ないわ!早く幻ちゃんのとこに戻って翼宿を連れてこない・・」

「美朱、すごい熱だ!」

「おい、どうした?」

がふらふらと星宿の腕の中に倒れこんだ、朱雀の巫女の側に馬を寄せて尋ねた。


その時、後ろで絹を裂くような悲鳴が上がった。

柳宿の馬が何者かに足をつかまれ、乗り主を振り落としたのであった。


馬は悲しそうにいななきを上げながら、地中から突き出した肉のこそげた手に飲み込まれていった。



「馬から降りろ、美朱さん、星宿様!」

が異様な気配を察知して後ろを振り返ったときは遅かった。

星宿の白馬が何者かに引っ張られ、彼らは揃って地面に叩きつけられたのだった。




「新鮮な肉をくれ・・」

「ださせん、この町から」

ついに地中から腐敗した肉と骨だけになった、死人がぞろぞろと顔をだし、

達の行く手を防いだ。


「やはりこの町は呪われている!」

が宝剣を抜き、まずそうに叫んだ。



星宿が美朱を護衛しながら、襲いかかる死人どもを切り裂き、柳宿は近くにあった巨木を

引っこ抜き、どかどかと死人どもを蹴散らしていた。


「ばかっ、油断するなっ!」


柳宿が星宿の腕の中で怯える美朱に安心させるように微笑んだ時だった。


の声とともに、地中から新たに別の手が突き出し、柳宿の足をむんずとつかんだのだった。


「星宿様!」


どこからともなく伸びてきた別の骨ばった手が後ろから星宿の首に手を回し、

二人がかりで押さえつけた。


「これじゃきりがない!」

一人難を逃れたは、次から次へと死人どもの迫り来る手を退けると、ひょいひょいと宙返りをして空中に飛び上がった。


「まとめてかたをつけてやる。流虎水!」

彼女が大声で呪文を唱え、真珠がぶら下がった宝剣を振り下ろすと、そこから大量の白虎の形をした水流が噴出し、

下で降りてくるのを待ち構えていた死人どもに襲いかかった。

水は次々と獲物を捕らえるごとく死人どもに飛びかかり、あとかたもなく彼らを粉砕した。


そのおかげで星宿、柳宿は自分達を締め上げていた無数の手から

解放され、ボトボトッと地面に落っこちた。




かすかな悲鳴があがったので、地面に降り立ったは何事かと

後ろを振り返った。


そこには「お前だけでも、肉を食らってやる・・」

と地面に隠れていた死人の残党どもが、恐怖で動けなくなっていた巫女の前に這い出てきたからである。


「しまった!」

が焦って美朱の側にかけよろうとした時だった。


「烈火神炎!」


聞き覚えのある男の声がし、今まさに朱雀の巫女に襲いかかろうとしていた

死人どもを火達磨にしてしていった。



満月をバックに、目の前の崖にたたずむ黒ずくめの男は幻狼その人だった。


「こんなことになっとるやろうと思たで――!お前一人でえらい苦労してるやないか!」

「幻ちゃん!」

「幻狼!なんでここに?」

朱雀の巫女はとても嬉しそうに懐かしい名前を呼び、は宝剣を握り締めたまま

驚愕していた。


「一気に行くで、、美朱と地面に伏せるんや!」


幻狼の目つきが一気に険しくなり、彼はその言葉を言い終わるかいなか

崖から思い切り空中へと飛び上がった。


再び、物凄い勢いの炎が死人どもを襲い、焼き討ちにしていった。


「ほんまは来るきなかったんや・・せやけど、何や一人で崖っぷちに立たされとるような

 危ない気がしてな」

「やっぱり、俺が来てみて正解やったわ」

「ありがと幻狼・・」

「栄研から、鉄扇取り返すの手伝った礼や思っといてくれ」

焼け爛れた屍が転がり、静かになった森では幻狼に、ぼそぼそと礼を述べていた。


「だけど、何で来たの?」

星宿に支えられた美朱が不思議そうに彼の顔を見上げて呟いた。

「アホ、まだ分からんのか?幻狼は俺の別名や。翼宿は俺や、騙してすまんかったな」

彼はそういってにんまり笑うと、袖をまくり、腕に浮き出てた「翼」の赤い文字を見せてやった。



「じゃ、あんたが五人目の七星士か?」

「そーや、。ほなこれからよろしゅうな」


幻狼は自分より背の低いの頭をちょっと撫でると、旅の仲間に加わることの意味をこめて挨拶した。

柳宿と星宿は「あーっ、なんでもっと早く言わなかったのよ、このボケぇ!」

「全く苦労かけおって!」とぶつぶつ不満を並べていたが。



「美朱!ちょっとどうしちゃったの?」

柳宿の腕の中で朱雀の巫女が意識を失って倒れたのはその直後だった。







急いで彼女を少華のいる家へ運んだが、事は思ったより深刻で

どうやら朱雀の巫女は今都で流行っている物の怪による流行病に感染したらしかった。




星宿は死者を生き返らせる能力を持つ少華に、愛しい朱雀の巫女を生き返らせてくれるよう

懇願したが、それは叶わなかった。


なぜなら、彼女はまだ死んでいないので、その能力が使用することが出来なかったからである。



たちは町中かけずりまわり、この病を治すことが出来る医者をあたったが、

どの医者もこの原因不明の病にはお手上げだった。



たった一人、病を直すことが出来る妙寿安という医者の家をようやく探し当てて

あたったが、彼は人と関わることを酷く嫌っており、けんもほろろに追い出されてしまった。




こうしている間にも朱雀の巫女はひどく苦しみ続け、達が目をそむけなければいけないほど

衰弱していったのであった。



この様子をとても心痛めて眺めていた少華は巫女を殺し、そうすれば自分の能力で生き返らせてやれると提案した。


、柳宿、翼宿、星宿はそんな残酷なことを出来るわけがないと言い張ったが、


瀕死の息の朱雀の巫女は床から、星宿に「このままでは朱雀を呼び出せない。早く元気になりたいから自らを殺してくれるよう」頼んだのだった。



「席を外してくれ」という星宿の有無を言わせぬ口調に、たちは

やりきれない気持ちで次々と部屋を出た。



最後にが扉を後ろ手に締めて出てしまうと、彼女はへなへなと床に崩れ落ち

声を押し殺して泣いた。



「お、おい・・泣くんやない・・美朱はすぐ元気になるって言ってたやろ」


翼宿が急に泣き出した彼女を見て慌てて肩に手をかけた。


「一瞬とはいえ、あんな酷な仕打ち、耐えられると思うのか?」


は翼宿の目を真っ直ぐに見て言い返した。


「私は鈴野――白虎の巫女を最後まで護ってやることが出来なかったのに、今度は朱雀の巫女まで――」


「あ、あほ・・お前まで泣いたらあかんやろ!俺まで悲しなってくるやんけ!」


翼宿も涙を必死にこらえていたのか、それを抑えるかのように彼女に向かって手を伸ばし

ぐっと抱きしめた。



「ちょ、ちょっと、翼宿・・」


「悪いな、しばらくこうさせといてくれんか、なんや涙が止まりそうにないねん」



いきなりそんなことをされたので、は不謹慎なことながら真っ赤になってしまい、


柳宿は「ちゃん、男にもてるわね・・」と死に行く美朱のことを案じながら


密かにこれまた不謹慎なことを考えていた。



星宿が美朱と部屋に閉じこもってからどのぐらいたっただろう。



時折部屋から、「ならばお前は心から愛しているものをこの手にかけることが出来るのか?」

「苦しいかもしれぬが耐えてくれ!」

という星宿の切なそうな声が扉にぴたりと耳をつけて盗み聞きしている、翼宿、柳宿の

耳にまで入ってきた。



「何なの、このやけに甘い雰囲気は・・」

柳宿は鼻息荒く、扉にますます耳を押し付けて呟いた。


「まさかあの二人、できとんのか?」


翼宿が勘ぐるように余計な一言を付け加えた。


「あ、それは言っちゃ駄目な――」


がまずそうにたしなめた時は遅かった。


柳宿の鉄拳をもろにくらい、翼宿は無残に近くの壁に叩きつけられていたからである。



「だ、大丈夫?」

は土壁にしっかりとめり込んだ翼宿の頬を突っついて、意識があるかどうか確かめていた。

!おのれは俺に向かってきた柳宿のパンチを真っ先によけたやろ!」

彼は案の定、烈火のごとく怒って気炎を柳宿の拳を避けた彼女に向けた。

「だからそれは柳宿の前では禁句だって、教えてあげたのだけど」

彼女は翼宿の腕を持って、壁から少しずつ引き抜きながらぼそっと言った。

「遅いわ、ボケ〜!」

「そんな怖い顔向けられても・・」

翼宿の怒り顔に、はひるみ、かなりショックなことを口にしてしまった。

「誰が怖いんじゃ、誰が!」

「痛っ!」

さらにカッとなった翼宿は自由になった方の腕で、の頭を思いっきり殴りつけた。

「せっかく壁から引き抜いてあげようと思ったんだけどな・・」

はむっつりとし、すたこらさっさと壁から離れていってしまった。


「待たんかいコラ!手伝え!」



「どうします?」

「そーねぇ、あれじゃ星宿様はだめそうだし、私もこのことには反対だったし・・」


「こら、無視すんな!」


翼宿がわめくのを尻目に、と柳宿はどうしたものかと額を寄せて巫女の容態を案じていた。

「巫女様、絶対に、絶対に――あの医者を連れて戻ってきます。

 もう、鈴乃の二の舞はさせたくないんです!」

「つらいですがもう少し、頑張って・・」


ああいったものの、妙寿安のところへ再び懇願に行ったところ

彼の横柄な態度は少しも軟化していなかった。


だが、最後の手段として全員で土下座をした頼んだ折、柳宿が

「少華さんのいうとおり、美朱を殺すことは出来ないもの」

ともらした言葉に妙寿安はとても動揺していたのだった。




「そんな馬鹿な――少華は一年前に病で亡くなったんだぞ!」



気味悪い風が吹き荒れる夜の町を柳宿、、星宿、翼宿達は必死に馬を走らせていた。


「あの女の人、悪霊のたぐいか?」

「わからん―けど、美朱が危ないことは確かや」

翼宿とともに鹿毛の馬を走らせながら、はまずそうに叫んだ。

翼宿もこの時ばかりは、何か見えない危険が迫っていると考えているらしかった。


そのときだ。


彼らの行く手を阻むかのように、大量の鎌や包丁や斧がどこからともなく飛んできた。




彼らは鋭い悲鳴を上げ、手綱を強く引っ張って馬を急停止させた。


その反動で彼らは地面に投げ出され、周りを死人どもに取り囲まれていた。





四人は背中合わせに対峙し、鎌や鉈や包丁や斧を片手に静かに歩み寄る死人どもを待ち構えた。


「何が起こったんや?」

「こいつら―私達を殺す気だ」


翼宿とがあせって叫んだ。


「何をする、離せ!」


まず最初に星宿が死人どもに二人がかりにつかみかかられ、


「やめんかい!お前ら全員燃やされたいんかい!?」

「これじゃ時間がない!一気に片付けてやる!」

死人にこちらも同じくつかみかかられて、ピンチに陥った翼宿とが、鉄扇や宝剣を背中から取り出そうとした。


「翼宿、―それをつかうことはならぬ!」

星宿が死人どもを振りほどこうとしながら叫んだ。

「どうしてです!?星宿様!う、あっ・・」

!やめんかい、おのれら!」


翼宿がの首を締め上げにかかった、死人を蹴り飛ばそうとしながら叫んだ。




柳宿が荷馬車を振り回し、星宿、、翼宿達に群がった死人どもを

綺麗にクリーンヒットしながら叫んだ。


「星宿様、ここは私達に任せてお先に行って下さい!」


「だが!」


「私達のことは気にしないで早く!」


柳宿が荷馬車のバリケードを作って、迫り来る死人の侵入を防ぎながら叫んだ。


!お前も俺がここを食い止めとるさかいに早う行って来い!」

「でも、二人だけじゃ・・」

「あほ!白虎の巫女の二の舞踏みたないんやろ?せやったら、早う行って美朱を助けて来んかい!」


「翼宿・・わかった」

「すまぬ!行くぞ、!」

「はい、星宿様!」


翼宿の言葉に背中を押されては、宝剣を片手に星宿と共に夜の闇へと消えていった。


「美朱!その女から離れろ!」

「しまった、遅かったか!」

星宿とが宝剣片手に、息せききってわらぶき屋根の粗末な家に飛び込んだときはすでに遅かった。


美しい女の姿から、見るもおぞましい物の怪へと変わり果てた少華が、朱雀の巫女の頭を

がっちりとつかんでいたからである。



「妖怪め、退治してくれよう・・」


「この剣で浄化してやる・・化け物め!」



殺す気満々の星宿と、必死に体中の勇気を奮い立たせて立ち向かおうとしている


剣をかまえ、二手に分かれて駆け出そうとした。



殺気だった二人を止めたのはあの妙寿安だった。


かつて恋人だった少華の変わり果てた姿を見て、妙寿安はとても戸惑っていた。


恨みつらみにかつての恋人に向けて少華は、一年前に、自分が病の床に伏せていたとき

いくらまっても来てくれなかった事、今更私のことを物の怪になっただの

どうこういう資格があるのかと問い詰めだした。




彼を再び殺そうとした星宿達に向かって、朱雀の巫女は「少華を殺してはならない、

彼女はただ妙寿安に会いたくてここに来たのだ、彼を愛していたから――」



と命を張って懸命に少華をかばって言った。



その言葉に少華はひどく動揺し、へなへなと力がぬけて床にくずおれた。


彼女の先ほどまでのおぞましい物の怪と一体化した姿は消え、再び美しい女の姿を取り戻していた。



ついに少華の肩が振るえ、そこから毒々しい赤色の体の一つ目玉の失魂鬼が飛び出し、


朱雀の巫女をその長い触手で捕らえ、締め上げた。


「許して、寿安・・この病魔は死んでも死に切れなかった私の寂しさに取り付いたの・・」

少華のその言葉に酷く動揺したは、思い余って宝剣を取り落としてしまった。

「嘘、そんな・・」

数十年前、封印していた記憶の一部がその時にはっきりと蘇った。

婁宿への失恋、はかりきれない寂しさと白虎の巫女への憎しみ、そこを敵につけこまれた

彼女は肉体と精神を乗っ取られ、あまつさえ護るべきはずだった白虎の巫女と同じ仲間である婁宿を殺そうと

したのだった。



「嘘・・やめ!こんなことをやっていたなんて・・」



「なんやの様子がおかしいで!」


部屋の隅で頭を抱えてうずくまったの異変に気づいた翼宿が、星宿、柳宿に向かって叫んだ。


「翼宿、彼を頼む、こやつは我々だけで片付ける!」


緊迫した状況で一歩も気が抜けない星宿は、そういい残すと柳宿と一緒に駆け出した。


「おい、どなしたんや?、なんや急に混乱しだして・・」


「寄るな!」


翼宿がぶるぶると震えだした彼女の肩に手をかけようとしたが、彼女はそれを物凄い勢いで振り払った。



星宿、柳宿も失魂鬼の触手にからめとられてしまい、

翼宿は、酷く混乱しだしたを側に、一人危機に立たされてしまった。



この危機を救ったのはあの妙寿安という医者だった。

彼は「美朱を救うために、自分を早く殺してくれ」と涙ながらに懇願する少華を

手の平を広げ、不思議な術で暴走する病魔ともども滅したのだった。


その後、町全体にかけられていた暗い呪いも解け

死人にされた町の人々も元の元気な姿を取り戻していった。



病魔の近くにいすぎたせいで目が見えなくなっていた朱雀の巫女も、

妙寿安の術ですっかり回復していた。




「おっちゃん、こいつも見たってくれ、何かさっきから様子がおかしいねん!」

翼宿が暴れるを抱え上げてきて言った。

、どしたの?」「何があったのだ?」

美朱や星宿たちもかけよってきて尋ねた。

「酷く混乱している・・何かあったな」

妙寿安は困惑し、うわごとを呟く彼女の姿を見て呟いた。

「わからん・・なんや少華の体から化け物がでてきたあたりから、おかしくなってん」

翼宿が暴れる彼女を必死で押さえつけながら叫んだ。

「直接の原因がわからんことには何ともいえん・・とりあえず彼を落ち着かせるまでだ」

妙寿安、もとい六人目の朱雀七星士の軫宿は苦しがる彼の額に向けて

手のひらを近づけ、不思議な術をかけた。


するとさきほどまで酷く苦しんでいた彼女は、ふらりと力が抜け、

翼宿の腕の中に倒れこんだのだった。



「なんや、どないなったんや?」

翼宿がずるっと落ちてきた彼女の体ををもたげて尋ねた。

「彼は落ち着いて眠ったようだ」


「お前が運んでやれ、俺は少華を埋葬してやらなきゃいかん」


軫宿はそう言うと、近くに寝かせていたようやく死を迎えられた少華を

抱え上げた。



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