がっしりとした作りの竜骨船は、朝日にきらめく大海原を快適に進んでいた。

紅南国の港を離れてから何時間経っただろう。

船内でひどい船酔いに苦しめられている翼宿を軫宿にまかせ、

は井宿とともに爽やかな潮風が吹く甲板に座って

時折、打ち寄せる泡しぶきを眺めていた。


「どうしたのだ、張宿?」

「下の船室で美朱さんの様子がおかしいって、皆心配してました」

「美朱の様子がおかしいのはいつものことなのだ」

「それ、ちょっと失礼じゃない?」

側を通りかかった張宿に、しゃあしゃあと答える井宿に

は苦笑いして切り返した。

「む?この感じ――前方から、何か邪悪な気がどんどん迫ってくるのだ」

急に井宿はよく晴れた青空に目をやり、険しそうな顔で言った。

「嵐にでもなりそうなの?今日はお天気びよりなのに・・」

はわけがわからないというように呟いた。



その井宿の予想は的中し、爽やかな海風がぴたりとやみ、

どこからともなくもくもくと沸いてきた黒雲が、青空を引き裂いた。



頭上の黒雲から豪雨が降り注ぎ、波は荒れ狂った。そして、ゴロゴロ、ピカッと

空が光ったかと思うと雷が船のマストの上に落ちた。


「ああ・・」


マストにたちまち火がつき、それは音を立てて次々と燃え落ちていった。


「井宿、これは何だ?」


「前から敵らしい気が近づいてきたと思ったら、嵐になって雷雲に襲われたのだ!」


騒ぎに気づいた鬼宿、美朱、柳宿がかけつける中、


「早く消さないと、他のマストにも燃え移るわ!」


と必死になって剣から「流虎水」を放ち、消火活動を行っていた。


やがて、消化活動も出来なくなるほど、雷撃が容赦なく船のマストや

甲板を襲い、船体が大きく揺れ、波に飲まれ始めた。


嵐はますます酷くなり、朱雀、白虎七星士達は、押し寄せる海水に流されないようしっかりと

ロープにしがみついて耐えるしかなかった。


ここで事態を何とかしたかった翼宿が鉄扇で、甲板に流れ込む海水を炎で蒸発させようとして

逆に流れ込んできた海水にさらわれてしまった。



「俺、泳げんのじゃ〜!!」


翼宿が海水にあっぷあっぷ浮いているのを甲板から乗り出して見つけた


美朱は迷わず荒れ狂う海に飛び込んだ。



「美朱!!あの馬鹿、ろくに泳げもしねーのに飛び込むな!」


鬼宿が止めようとした時にはすでに遅く、彼はチッと舌打ちすると


急いで彼女を追って飛び込んだ。



「待ってなさい、今、縄を下ろす――あーーっ、!!あんたまで行っちゃ・・」


ドッボーンと景気よい水音がして、柳宿の横をかすめてが飛び込んだ。


「翼宿、結界を張ったから早く!」


「おおきに!」


鬼宿が先に海中でもがいていた美朱を助けに行き、その隙に、自分の周りに海水が押し寄せてこないように


水の結界を張ったは、じたばたしていた翼宿のところへ泳いでいき、彼の手を自らの肩につかまらせた。




水の結界の中でようやく息を吹き返した翼宿との目の前に、柳宿からのロープが下ろされた時だった。


別の高波が、離れた場所で海面に浮いていた鬼宿と美朱を、さらにロープにつかまった


翼宿を引き上げようと甲板から身を乗り出していた柳宿を飲み込んでさらってしまった。



「鬼宿、美朱、柳宿〜!!」


泳げない翼宿を先にロープを譲り、波に浮いていたは悲鳴を上げた。


、早くあがるのだ!今、ここに雷が落ちたら君まで感電死してしまうのだ!!」


井宿が問答無用でロープを下ろし、三人を助けに行こうか否か迷っている

に警告した。



それから気の遠くなるような時間が過ぎた。


井宿、達は、雷雲に彼らの気を妨害されながらも、鬼宿達をなんとか探し出し船に引きあげた。




「あの雷雲のおかげで、三人の気を見つけるのに苦労したのだ」


井宿が笑顔で三人が無事生還したことを喜んで言った。


「よう生きとったな・・」


「うっせえ!元はといえばお前が海に落ちたせいだろーが!」


翼宿、鬼宿も彼らなりのやり方で互いの無事を喜んでいた。


「寒かったでしょう?私の服貸してあげるから着替えてね」


「ありがとう、。翼宿も無事で良かった!」


は美朱の荷物の中から乾いたタオルを取り出し、差し出してやっていた。




「あれを見ろ!」

船室の窓からこっそりと様子をうかがった軫宿が叫んだ。


「陸地や!なんや、雷がやんだんで道が開けたんやな!」


翼宿達もこぞって窓に駆け寄り、雷雲がスーッと雲の子を散らしたように立ち消え

隠れていた青空が顔をだした。


それから彼らは甲板に上がり、澄み渡る青空と目の前に広がる陸地へと

目をやった。



船は滑るように浅瀬に近づき、彼らはようやくそびえたつ山々に囲まれた


乾いた大地へと降り立った。



「ねえ、ここどこ?」


「どーやら、私達、あの雷で船を変なところに流されちゃったみたいね」


「少なくとも北南国じゃないみたい。それにしてもさっきから歩き続けているのに

 誰にも会わないなんて・・変だ・・ここは無人島か?」


美朱、柳宿、はがさがさと木や草をかきわけて進みながら話していた。


「あれ、こんなところに手が?」

美朱が頭上の木から力なく垂れ下がっている篭手をつけた男の両手が

あるのに気づいてふと上を見上げた。


全員、あまりの凄惨な光景に息を呑んだ。



「こ、これ・・船から落ちた紅南国の兵士じゃない!?」


ようやく口が利けるようになった柳宿が言った。


「ど、どうしてこんな・・」


「見るな、美朱!」


鬼宿は両目を無残にもえぐりとられ、身体に何本もの槍が突き刺された逆さづりの

兵士を見てしまった彼女を抱き寄せた。


「何この島・・これは私達への見せしめってこと・・」

は翼宿の腕にしがみつき、心底縮み上がっていた。


「はっ、ま、まさか・・まずいです、ここは!」


「皆さん、身の安全のため、すぐに女装してください!!」


「ここは・・ここは・・間違いない、女誠国です!!」


張宿の張り詰めた声が皆の緊張を一気に高ぶらせた。











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