(巫女を助けに行きたいが、心宿に術以外では叶わない。それになんとか鬼宿を止めないと・・でも、私には術が仕えない。それにあいつ・・力では到底叶わない)
極限状況に追い詰められ苦しむが、ふと懐に
手をやったところ、紫色の香水瓶がカラカラと音を立てて転がり落ちた。
「これは?」
彼女はしばらく地面に落ちた紫色の香水瓶を眺めていたがハッとして
絶対絶命のピンチに陥っている翼宿と鬼宿を振り返った。
「井宿、巫女は任せた」
はそういうと、目にも留まらぬ速さで鬼宿の後ろに
回り込んだ。
「鬼宿、こっちを向け!」
「なんだよ、うっせーな、お前も死にてーの・・うわあああっ!!」
いちかばちかの賭けで、は香水瓶の栓を抜き、
呼びかけに振り向いた鬼宿の顔めがけて香水の中身を噴射した。
「目が、目が・・くそっ!あいつ・・よくも」
ゲホッゲホッと激しくむせ返る鬼宿を尻目に、は翼宿を抱え上げ
思い切り地面を蹴り、ひゅうっと飛び去った。
「翼宿、翼宿、しっかりしろっ!!」
「お前、泣いとんのか?安心せい、まだ大丈夫や・・しっかしまさか、お前に何度助けられとんのかな・・」
彼女は激しい傷を負った翼宿にはらはらと涙を流し、彼はうすれゆく意識の中で目を開け、
安心させるように笑った。
その時だ。軫宿の猫が空に浮き、赤い光を発し、荒々しい笛の音がどこからともなく聞こえてきた。
井宿の術が炸裂し、驚いた心宿は大爆発を起こした赤い光を食らわないよう飛びさすった。
気がつくとは翼宿を抱きかかえ、井宿や巫女とともに赤い光の中にいた。
「女と関わるとろくな目に会わん・・これやから女は嫌いなん・・」
朱雀の巫女の呼びかけに、本音を隠したいがために、翼宿は苦し紛れに言い放って意識を失った。
はその言葉にどきりとしていたが。
「ああっ・・頭が・・」
「さん、ちょっと大丈夫ですか!?」
「、しっかりするのだ!」
宮殿に帰ってきたは、急に激しい頭痛と胸の痛みを訴えて倒れ
井宿と張宿に慌てて支えられた。
「術が使えないのにも、あの鬼宿相手によく頑張ったのだ・・」
ぐったりと彼の腕の中で動かなくなった彼女を抱きかかえた
井宿はひどく心を痛めていた。
「おいらが運ぶのだ。軫宿、手当てを頼むのだ」
彼は力強い腕でしっかりと彼女を抱き上げると言った。
「さて、・・」
彼は先ほどからひどくうなされて苦しむの
頭に手のひらを近づけ、不思議な術をかけた。
「彼はさっき胸を押さえて苦しんでいたのだ。胸に異常がないかそのほうも見てやって欲しいのだ」
治療を見守る井宿は、酷く心を痛めて軫宿に言った。
「ああ、そうだな・・随分前に似たような発作を起こした時もそうだった・・ん?こ、これは!?」
「陛下、大変申し上げにくいのですが――」
「ん、何だ?」
「彼、は男ではなく女でした――」
「何だと――」
「痛い・・ん?何だこれは〜!?」
が突然目を覚ました。彼女の今まで着ていた男物の絹服は全て脱がされ、透け感のある楊柳をあしらったシフォンの白絹の服を中にまとい、ワインレッドの
上着と長いスカートの女物の衣装をを着せられていた。
「あら〜気がついたのね?やっぱりよく似合うわねぇ〜本物の女の子に着せたら!」
「私、一度やって見たかったのよね〜自分以外の女の子に宮廷服着せるの〜」
の絶叫を聞きつけて鼻歌まじりにやってきたのは、誰あろうあの柳宿だった。