「どういうことかね?ポッター!?」

スネイプは突然叫んだハリーに難色を示した。

「彼女はブラックに錯乱の呪文など、かけられていません!先生は捕まえる人を間違えているんです!!」

ハリーは必死に弁明した。

「なっ、何を」スネイプは驚いて言った。

「彼らの言っていることは本当なんです!!ブラックは無実なんです!!真犯人は別にいたんです!!」

ハーマイオニ―もベッドから起き上がって言った。

「僕達、今夜真犯人を見ました!!ピーター・ぺディグリュ―なんです!!ロンのネズミの・・」

「そうか、お前達もあいつに錯乱の呪文をかけられたのだな・・やつめ・・」

スネイプはハリー、ハーマイオニ―、の懸命の主張を綺麗に無視して、新たにブラックへの憎しみを噛み締めた。

「先生!お願いです!私達の話をどうか聞いてください!!先生は途中で気絶されてたから肝心の部分を知らないんです!!」

がベッドから強引に起き上がり、スネイプの一番痛い盲点をここぞとついた。

「黙れ!!ミス・ !!お前の口からこれ以上ブラックを弁明する発言など聞きたくない!!」

スネイプは彼女に自分が気絶していた空白の時間のことを見事に突かれて、致命傷を負った動物のように怒りの唸り声で

彼女の口を何としても閉じさせようとした。

「いいえ、黙りません!!私達は先生に真実を伝えたいんです!!このままだと無実の人間がアズカバンに返還されてしまうんですよ!!

 そして、真犯人はやすやすとそれに味をしめて逃げてしまう!この出来事は虚実で片付けられブラックは一生、あそこから

 出て来れないんですよ!!それでもいいんですか!?真実を闇に葬り去るような遣り方をして!!」


は懸命に何とかして、スネイプの心を開かせようと訴えた。


「お前は何も分かってない!!何も分かってないのだ!!それ以上喋るな!!黙れ!!」

スネイプは彼女を見て怒り狂って叫んだ。

「先生、でも先生には空白の時間が長かったのは事実ですし、 の言っていることはつじつまが・・」

ハーマイオニ―が黙りこくってしまった彼女を弁護するように言った。

「グレンジャー!貴様は口出しするな!!」

スネイプは問答無用で向かいのベッドの彼女をひどく睨みつけ、荒々しく怒鳴り散らした。

ハーマイオニ―は真っ青になって口をつぐむしかなかった。

「いいかげんにその固定観念に囚われて、周りが見えなくなる癖を直したらどうですか!!」

ハリーが、これっぽちも聞き耳をもたないスネイプに頭にきて、激しく怒鳴った。

「な、何だと・・ポッター!!貴様、よくも我輩に向かってそんな口を利けるな!!生意気な!生意気な!!」

怒りが頂点に達しているスネイプは、 のいるベッドからひとっとびに向かいのベッドで寝ているハリーのもとへ

大股ですっ飛んでいき、ハリーの胸倉をガバッと掴んだ。

「離せっ!何も分かってないのはじゃない!あんたのほうだ!頭を冷やせ!!」

ハリーはシリウスを助けたい一心からスネイプに胸倉を掴まれながらもさんざんに罵った。

「貴様!!」

今やスネイプはハリーを殺しかねん勢いだ。


「離せ、離せ!!」

ハリーは必死に彼から逃れようともがいた。


「二人共やめなさい!!」


「やめなさいってば!!」

ハーマイオニ―、 が殴りあいを始めた二人を引き離そうと間に入った。





「何をやっておる!?」


医務室のドアが勢いよく開き、ダンブルドア校長が血相を変えて飛んできた。


「セブルス、ハリーやめんか!!」


校長は間に入ってようやく二人を引き離した。

ハリーは口の辺りから血を流しているし、スネイプは目の辺りに大きなクマが出来ていた。

「セブルス、君が生徒を殴るとは感心せんな・・それにハリー、君も先生を殴ったことは・・」

「分かっています。いけないことです」

ハリーは校長が先を言う前にうなだれて答えた。

「たった今、シリウス・ブラックと話をしてきたばかりじゃよ・・・」

校長はハリーが心底落ち込んでいるのを見て穏やかに言った。

「さぞかしポッターや に吹き込んだと同じ作り話をお聞かせしたことでしょうな・・」

スネイプは苦虫を噛み潰した顔で、呟いた。

「彼らが言っていたネズミが何だとか、ぺディグリュ―が生きていたとか・・」

「さよう、ブラックの話はまさにそれじゃよ」

校長は言った。

「では、校長は我輩の証言が何の重みもないとおっしゃりたいのですな?」

スネイプはプチンとぶち切れて、校長に詰め寄った。

「セブルス、席をはずしてくれんかの・・わしは四人だけで話がしたいのじゃが・・」

校長は尋常ではないスネイプの態度に気づいたのか、静かに言い放った。

「な・・まあいいでしょう。だが、校長。よもやブラックの話など一言も信じてはおられないでしょうな」

スネイプはダンブルドアとすれ違いざまに囁くように言った。

彼はメチャクチャに怒り狂って、大股でドアまで歩いていき、荒々しくドアを閉めた。

(フン、ブラックを救おうにも今更何が出来るというのだ・・奴はもうすぐ死ぬ!残念だな・・ 、ポッター!)

スネイプは収まらない怒りを発散させるために、心の中で思い切り悪態をつき階段を駆け下りていった。

「先生!!」

スネイプが出て行くと同時に三つの声が校長に襲いかかった。

、ハリー、ハーマイオニ―はあの手この手で必死に校長にぺディグリュ―が真犯人だと、シリウスは冤罪だったと訴えた。

「よくお聞き、三人共、もう遅すぎる。分かるかの?他の人間が13歳の魔法使いより、残念だが、スネイプ先生の証言を信用することは

 明白じゃ。それにブラックの言っていることを証明するものなど何一つ無い」

「そんな・・でも校長先生は僕達を信じて下さってるでしょう!」

ハリーは絶望して叫んだ。

「さよう・・しかし、わしは、他の人間に真実を悟らせる力はない・・」

「では、もうなすすべはないのですか?」

は校長の深刻な顔を見上げ、必死に声を振り絞って言った。




「いいや・・ミス・ 。今必要なのは・・・」

校長が安心させるように微笑んで シシ― を見下ろした。

「時間じゃ!」

校長は から目を離し、ハーマイオニ―に目を向けた。

彼女は何かピンときたようだった。


その時、ロンがようやく意識を取り戻した。

「あっ、校長先生!ハリー、ぺ、ぺディグリュ―はどこに行ったんですか?それにブラックは?」

ロンは混乱した頭で四人を見て、慌てて言った。

「落ち着くのじゃ。ウィ―ズリ―」

そういって、校長はギブスで固められ、金具で吊られている彼の足の先を軽く叩いた。

ロンはあまりの痛さに、情けない声を上げて、足を押さえしばらくその場で固まった。

「さあ、よく聞くのじゃ。シリウスは城の最上階の時計塔に閉じ込められておる。首尾よく運べば、君たちは、

 今夜、一つと言わずもっと、罪なきものの命を救うことが出来るじゃろう・・。

 ただし、決して見られてはならぬ・・ミス・グレンジャー、規則は知っておろうな・・誰にも見られてはならんぞ!」

校長はドアのところへ歩いていくと、三人を振り返って微笑んだ。

「念のためじゃ・・君達を閉じ込めておこう・・今、真夜中の十二時じゃ。三回ひっくり返せばよい。

 幸運を祈る・・では行っておいで!」


大きな蝶番が閉まる音がした。

「三回ひっくり返すって何のことなの?」

が言った。

「二人共、早くこっちにきて!」

ハーマイオニ―が急かした。

「君達何をする気なんだい?わけがわからないよ!」

ロンがベッドから痛む足を押さえながら叫んだ。


「動けない人は黙ってて!」

ハーマイオニ―は懐からとてつもなく長い金鎖をだして、二人の友人達と自分の首に鎖をかけているところだった。

「ハーマイオニ―、これはなんだい?」

ハリーは彼女の手のひらにある金色のわっかで囲まれた砂時計を手にとって眺めていた。


「触らないで!」

ハーマイオニ―はハリーの手を叩いてやめさせていた。

「それじゃいくわよ!」

ハーマイオニ―は砂時計を三回ひっくり返した。

この部屋に何人もの人々が入れ替わり、立ちかわりすごい勢いで出たり入ったりしている。


まるでビデオで巻き戻し、早送りの動作を同時に行っているようだ。

背景、色彩がどんどん三人の間を飛んで、追い越していく。


奇妙な金属音が鳴り響き、二人は誰もいなくなった病室にたたずんでいた。

「早く!」

ハーマイオニ―は二人に有無を言わせずに、病室の扉を乱暴に開け、廊下を駆けていった。二人 も慌てて後に続いた。

天井からぶら下がっている巨大な振り子時計が三人を見送っていた。


三人は玄関ホールを抜け、辺りを何度もきょろきょろ確認しながら、誰も見ていないことを確認し、近くの草や木がぼうぼうの

茂みに駆け込んだ。

「誰にも見られてない?」

が不安そうに聞いた。

「ああ、たぶんね」

ハリーが息を弾ませながら答えた。

「誰もこないし、ここなら話しても大丈夫ね。」

ハーマイオニ―が金鎖を取り出して二人に説明し始めた。

「これ、タイムターナー(逆転時計)って言うの」

「これをマグゴナガル先生から頂いて、沢山の授業に時間をまき戻して出ていたの。わかった?」

ハーマイオニ―はハアハア息を切らせながら言った。

「校長先生は私達に何をさせたいのかしら?シリウスだけじゃなく、もっと罪なき命を救えるとか、何とか」

が考え込んで言った。

「僕達、確かこの時間、ハグリッドのところへ行っていただろう?」

ハリーが記憶を巻き戻しながら答えた。

「確か、ビーキーが・処刑されて・・」

比較的三人の中では最も記憶力のよいが呟いた。


「ああっ!それだ!ヒッポグリフを救うんだ!」

ハリーはパッとひらめいた。

「ビーキーを助けて、シリウスのところへ飛んでいって・・彼とともにビーキーを逃がす!!さすが、校長!!

 いつもなんてさえてるの!!ああ、夢みたいだわ!!シリウスは今夜自由になるのよ!」

は狂喜した。

「やりましょう!ベストを尽くすの!これはとても難しいことだけど・・やるのよ!」

ハーマイオニ―が意気込んだ。

「早く、ハグリッドの小屋へ!あそこにカボチャ畑があったでしょ!そこに隠れて様子を見ましょう!」

ハーマイオニ―が二人にヒソヒソと言った。

三人は再び、メチャクチャに駆けて、ハグリッドの小屋が見える丘の上まで来た。

「見て、私達よ!小屋に入っていく・・ああ、ドアが閉まった。今よ!」

ハーマイオニ―の合図で三人は丘を下り、小屋のすぐ前にあるカボチャ畑までダッシュした。

カケスが何十羽も畑に群がり、やかましく鳴いていた。二羽のヒッポグリフが杭に太い鎖でつながれていた。

三人はそれらを脅かさないように、慎重に避けて、カボチャが何段も積み重なって、小屋の内部から見えない位置に回りこんだ。

三人は巨大カボチャに背を向ける格好で地面に腰を下ろして待機した。


陶器の砕け散る音が小屋の中から聞こえてきた。

「スキャバーズ!?」

ロンの叫び声が上がった。

「くそっ!ぺディぐリュ―だ。」

ハリーは憎憎しげに小屋の開いている大きな窓を見た。

「ねえ、あいつを・・中に飛び込んでとっ捕まえたらどうだろう?」

ハリーは突然思いついて言った。

「ダメよ!!」

ハーマイオニ―とが叫んだ。

「分からないの?私達、時間を変える魔法界の重大な規則を破ってるのよ!時間を変えるなんて誰も

 やっちゃいけないのよ!魔法使いが時間にちょっかいを出した時、どんなに恐ろしいことが起こったか!

 何人もの魔法使いが過去や未来の自分を殺してしまったのよ!!ハリー、それがあなたが今まさにやろうとしてる

 ことなのよ!!」

ハーマイオニ―が真剣な顔で諌めた。

「ごめんよ・・ちょっと思っただけなんだ・・」

ハリーは歯がゆい気持ちで謝った。

「くやしいわね!肝心なとこを変えられないなんて・・」

が窓に目をやりながら、歯軋りした。

「しっ!見て!あそこ、死刑執行人とファッジ、ダンブルドアが来たわ!」

ハーマイオニ―が二人を黙らせてから、小屋の入り口に目をやった。

「見て、裏口から私達が出てきた!!早く、ここにあの時の私達がやってくるわ!」

ハーマイオニ―は小声で二人に合図すると中腰で地面を這うように移動し、近くの森に逃げ込んだ。

間一髪、三人は森に入り、それぞれ近くの木の陰に身を隠した。


「ねえ、今、なんか後ろで音がしたような気がするんだけど・・」

「なんだい?誰もいないじゃないか」

「ビーキー・・可愛そうに・・」

「ああ、急いで・・私とても耐えられない・・」

さっきまで三人が張り込んでいたところには、あの時のロン、ハリー、、ハーマイオニ―が来た。

四人は巨大カボチャの影に隠れ、小屋の中の様子をしばらく伺っていたが、

ハーマイオニ―、が泣き出したので、ロン、ハリーが処刑を見せてはいけないと思い、

先を急ぐように促し、丘の上へ駆けていってしまった。


「え〜ハグリッド、これが死刑執行の通知書だ。我々はこれを読み上げねばならんのだ。短く済ますつもりだ。

 まず最初に君とマクネアのサインが必要だ」

小屋の中からファッジの声が聞こえてきた。

「今よ!今のうちに二羽を助け出しましょう!」

ハーマイオニ―が二人に合図した。

「よし、僕がバックを」

「私はビークを」

ハリー、 は意を決して、木陰から飛び出し、そこらへんにいるカケスを踏まないように注意して避けながら、二羽のヒッポグリフに近づいた。

二人が近づくと、ビーキーは顔を上げ、不思議そうに大きく首を傾げた。

二人 はまばたきしないようにして、丁寧にお辞儀した。

二羽のヒッポグリフは膝を軽く曲げ、優雅にお辞儀を返してきた。


「死刑は斬首とし、委員会の任命するワルデン・マクネア氏によって執行され・・」


「バック!来い!」

ハリーは柵に縛り付けてある鎖を懸命に解きながら言った。

「おいで・・私はお前を助けにきたのよ・・いい子だから・・さあ・・」

はビークの鼻面を優しく撫でてから、特殊能力の一つを使用し、ビークにしか分からない言葉で話しかけていた。

「これ、最後の鎖の結び目が固くてほどけないよ!」

ハリーは額の汗を拭いながら、 にハーマイオニ―にイライラして聞いた。

「バック・・ほら・・いい子だからおいで!!」

が慌ててハリーの下へ走っていきバックにビークと同じように話しかけた。

「この子ここから動きたくないんですって・・そういってるのよ!困ったわ・・」

はバックの言っていることを聞き取ってハリーに言った。

「鳥と喋れるの?」

ハリーは半信半疑で彼女 に尋ねた。

「信じられないけど、そうよ・・アラゴグの時もそうだったでしょ。」

は短く、手早く答えた。


「バック、こっちにおいで〜餌よ!ほらほら〜」

ハーマイオニ―が、ハグリッドのところで吊るされていた野ウサギの死体をかっぱらってきて小声で言った。

途端にバックの目の色が変わった。

彼は物凄い勢いで、ハリーを引っ張り、餌のほうへ駆け出した。

「早く!早く! 、ビークを先に森の奥へ連れてって!!」

ハーマイオニ―が野ウサギをポーンとバックに放り投げながら合図した。

「バック、おいで!早く!」

ハリーは思いっきり鎖を引き、バックを森へと誘導した。

は小屋から視界が遮られるところまでビーキーを走らせていた。

「早く!早く!あの人たちが出てくるわよ!急いで」

ハーマイオニ―がうめくように言って野ウサギの束をバックの目の前で振り回した。

ハリーは鎖を引っ張り、バックとともに森へ引っ込んだ。



「では、これにて終了する。各人、外へ」

はビークを出来るだけ早く森の奥へと走らせながら、懸命に並外れた聴力で小屋の中から聞こえる声を

聞き取っていた。

サッと後ろを振り返るとハリー、ハーマイオニ―は木の陰にそれぞれ隠れて小屋の様子を伺っていた。

「どこだ?」

ファッジの間の抜けた声だ。

「確かにここにいたぞ!いったいどうなっているんだ!?ハグリッド、貴様が逃がしたんじゃないのか?」

マクネアが怒鳴り散らす声が聞こえた。

「これは異なこと・・マクネアさん、ハグリッドが逃がしたとおっしゃるようじゃが、彼は先ほどまで

 我々と一緒にいたのではないのかな?それはありえんじゃろうて・・」

ダンブルドアは面白そうに空を仰いで言った。

「というわけだ・・・すまんが、マクネア。君の仕事は無くなったようだ」

ファッジがポンポンと彼の肩を叩いて労った。

「誰かが鎖を解いて逃がしたんだ!探さなければ!」

マクネアはまだ喚いていた。

「そうされるなら、空を探すのがよい・・さて、ハグリッドお茶を頂こうかの。

コーネリウス。君もわざわざご苦労じゃった。どうかね、一杯?」


ダンブルドアはまだ面白がっていた。

「やれやれ、とんだ無駄足だったようだな・・なんだか疲れたよ」

ファッジは澄み切った夕焼けの美しい空を眺めると、いそいそと小屋の中へ入っていった。

「ささ・・お入りくだせえ・・先生様、大臣・・」

ハグリッドの嬉しそうな声が聞こえてきた。

一人取り残されたマクネアは腹いせに、近くにあった巨大カボチャ目掛けて斧を振り下ろした。

派手な音とともに、畑にいたカケスの群れがけたたましい鳴き声をあげ、空へと飛び立った。




「これからどうする?」

バックを森に引っ張っていきながら、ハリーはハーマイオニ―に尋ねた

「とりあえずと合流して・・それからしばらく森の中でかくれていましょう」

ハーマイオニ―はバックに野ウサギの死体を与えながら歩いた。

はどの辺にいるんだろ?」

ハリーが叙序に暗くなる空を見上げながら言った。

「彼女は用心ぶかいから、ビークと絶対安全な場所にいると思うわ」

ハーマイオニ―が誇らしげに自分の親友のことを語った。

「もうすぐ日が沈むな・・」


ハリーが空を見上げて呟いた。


「じゃあ、移動しなくちゃ。ここからでは暴れ柳が見えにくいわ。もう少ししたら私達が暴れ柳から出てくると

 思うわ。時間的にね」

ハーマイオニ―がタイムターナーを見ながら言った。

「オッケー!バック、来い!」

ハリーは鎖を引っ張ってヒッポグリフを誘導した。



「二人共!!ああ、やっと来たわね!」

!」

森の奥の方からビークにまたがった彼女がこちらに駆けてきた。

「ほんっとにこの子はいい子よ。翼が生えて天使みたい。逃亡する時、私を摘み上げて背中に乗っけてくれたのよ!」

はビークから軽い身のこなしで地面に下りるとドギマギしているハリーに笑いかけた。

「ああ、僕はいつも君に驚かされっぱなしだ・・君はなんと言うかスバラシイよ!」

ハリーは真っ赤になって彼女を褒めちぎった。


「で、これから暴れ柳が見える位置まで行くのね?」

がハーマイオニ―から野ウサギを受け取り、ビークに食べさせながら聞いた。

「そう・・うん・・だいたいこの辺でいいな・・ここなら丁度向こうから死角になってるし・・」

ハリーは茂みの中にしゃがみこんだ。

「僕、今夜父さんを見たんだ」

ハリーは嬉しそうに二人に話した。

「何ですって?」

ハーマイオニ―が聞き返した。

彼はすらすらとディメンターに襲われた時のことを話した。

は見なかった?僕らが倒れた時、向こう岸から大きな銀色と赤色の塊が疾走してきて、僕らを吸魂鬼から

 救ってくれただろう?あれは間違いなく、本物のパトローナスだよ」

彼は力説して言った。

「ええ分かるわ。あの時、かすかに見えたもの・・でも凄かったよね・・」

は感慨深げに言った。

「あれを作り出したのは、僕の父さんなんだ・・たぶん・・」

ハリーは言った。

「で、でもあなたのお父様はお亡くなりになったのよ!そんなはずはないわ!」

ハーマイオニ―が哀れみと驚きをこめた目で見た。

「わかってるよ・・だけど、僕はもう一人、かすかに岸辺に立つ影を見た。

 神々しくまばゆい光を放ってた・・」

ハリーは夢見るように言った。

「そう、それ、私も夢じゃないかと思ったんだけど、やっぱりハリーにも見えたのね?

 もう一人確かに立っていたわ!」

のあの時の記憶が鮮明に蘇ろうとしていた。

ハーマイオニ―は二人を正気を失ったのではないかという目で見つめていた。

「二人共・・」

「分かってる」

「こんなばかげたこと分かってるよ・・」

ハーマイオニ―の言葉を遮って、 、ハリーは呟いた。

「見なさいよ!出てきたわ!」

ハーマイオニ―が二人に声をかけた。

暴れ柳の穴からシリウス、ハリー、ロン、 、ハーマイオニ―、ぺディグリュ―、ルーピンがぞろぞろと出てきた。


「あんちくしょう!ぺディグリュ―がこの後逃げるんだ!」

ハリーは悪態をついた。

「しっ!黙って・・見てロン、私が狼に襲われているわ!ああっ、 が背後から枝を投げたわ!狼が気づいた!

 あっ!狼が とハリーを追い詰めてる! がああっ、ネコになって・・狼に吹っ飛ばされてる」


ハーマイオニ―は手に汗握る思いで、状況を説明していた。

「ああっ!狼を僕が後ろから棒で殴って、それから僕が下敷きにされた!

、うわ、何発も後ろからぶっ叩いてる・・」

ハリーは改めて彼女の恐ろしさを感じさせられた。

「ああっ、が襲われてる!」

ハーマイオニ―は狼が彼女 に完全に覆い被さって、首下に牙を近づけているのを見ると恐ろしくて手で顔を覆ってしまった。


「シリウスがを助けに来たよ!狼をぶっ飛ばした!僕と はその場を離れて・・

 ぺディグリュ―だ!奴が逃げた!シリウスがすごい怪我で土手を落ちていく!」

ハリーは目をこらして、当時の血なまぐさい修羅場に圧倒されていた。

「狼が私達の方に向かってきたわ!スネイプ先生が飛び出してきて、攻撃をくらったわ!痛そう〜

 ああ〜嫌だわ。四人がじりじりと間を詰められてる〜このままじゃ殺されるわ!」

は手に汗握る思いで、何とかその場に留まっていた。


狼と四人の距離はもう目と鼻の先にせまっていた。

「早く、早く何とかしないと・・まずいみたいよ!でも、どうすれば!?」

は真っ青になってハーマイオニ―に助けを求めた。


「あっ!分かったわ!」

ハーマイオニ―はハッとし、口を思いっきり開けて大声で狼の遠吠えをした。

「何やってんだよ!ハーマイオニ―!狼がこっち見てるじゃないか!」

ハリーが驚いて彼女にストップをかけようとした。

「馬鹿ね!狼の気が四人から反れたじゃない!」

ハーマイオニ―は再び大声で叫んだ。

「よかったわ・・完全に狼は四人から気が反れたみたい。でも、こっちにくるわよ!」

が真っ先にこっちに向かってくる狼に気づいて叫んだ。

「逃げろ!」

ハリーのかけ声で三人は地面を駆け出した。



ハーマイオニ―と、ハリーは必死の形相で暗く深い森を木や、草を掻き分けて走りに走った。

は後ろを振り返った。

距離がどんどん縮められていく。物凄い顔の狼が確実にこちらに向かってくる。

「ああ、このままじゃ追いつかれるわよ!」

は相手との距離を計りながら悲鳴を上げた。

ハリーはひたすら前を見て走っていた。

沢山の木が複雑にからみあっている場所に出た。

「隠れろ!」

ハリーはピンときて合図した。これだけ木がからみあってれば狼だって三人を見つけにくい。

ハーマイオニ―と は別々に隠れた。

狼はすぐさま追いついてきた。

きょろきょろと目を動かし、獲物の臭いを嗅いでいる。

狼は木の陰を絶え間なく覗いて獲物がいるかどうか探し出そうとしていた。

とハーマイオニ―が間近で聞く狼の遠吠えに、恐怖を覚え小さく悲鳴を上げた。


「早く、こっちへ来て!」


狼があらぬ方向へと向きを変えたのを確認したハリーは二人を手招きした。

「今のうちに逃げよう!」

三人は音を立てぬようにそろそろと後ろに下がり、木の間をぬってその場から逃走しようとした。


木と木がからみあっていない場所に出た。


恐ろしい唸り声がした。

何かが空を飛んでハリー達の目の前に着地した。

三人は突然現れた狼にそろって悲鳴を上げた。


とハーマイオニ―は目を瞑った。

ハリーは狼から目を反らせなくなり、完全にその場で石化した。


狼が三人に飛びかかった。

だが、横から一匹のヒッポグリフが乱入し、狼を力強い前足で蹴飛ばした。


狼は二、三メートルほど吹っ飛ばされ、痛みに悲鳴を上げながらその場からほうほうのていで逃げ出した。

「バック、助かったよ!」

ハリーは嬉しいのと驚いたので叫んだ。

「わあっ!ビーク!」

は後から駆けてきたもう一頭に摘み上げられ、背中に乗っけられていた。

「乗って!」

は近くにいたハーマイオニ―を引っ張り上げて乗せた。


ハリーはバックに摘み上げられ、背中に乗せられた。

「この先は湖よ!シリウスがそこに来るはずだわ!行け!」

はビークの首の鎖を掴んで、命令した。

二匹のヒッポグリフは暗い森をすごい勢いで疾走した。



湖のちょうど反対側に三人は到着した。

「バックとビークはここで待ってて。おとなしくしてて・・・」

シシ― はトンっとビークから降りると、二匹に声をかけた。

ハーマイオニ―はビークから降りると、木の陰に上手く二羽を隠しにいった。


鋭い悲鳴が聞こえた。


「シリウス!!」

とハリーは慌てて、岸辺に走っていった。


シリウス、ハリーが吸魂鬼にエネルギーを吸い取られている。

が必死に一人で弱弱しいパトローナスを作り吸魂鬼を跳ね返している。

しばらくして、ハリーが正気に戻り、パトローナスを シシ― とともに作り出していた。


シリウスがついにこときれた。

「見て、パトローナスの光が消える・・」

「今だよ、ほら、すぐに父さんと女の人が現れるはずだ!」

不安そうに向こう岸を見つめる彼女に、ハリーは安心させようと声をかけた。


完全に、二人の弱弱しいパトローナスの最後の光が消えた。

二人は吸魂鬼にどんどんエネルギーをぬかれようとしていた。

「父さん、どこなの?早く――」

ハリーはじりじりと待った。

「誰も現れないじゃないの!」

はもう待てなかった。このままでは全員自滅だ。


ならば、最後はこの手にかけるしかない。自分たちでやるしかないのだ。





「エクスペクト・パトローナム・・・」

は意を決して杖を振り上げた。


彼女は懸命に幸せなことを考え、守護霊を出そうとしていた。


ハリーはハッとした。


今夜現れたのは父さんでも女の人でもない・・僕と彼女自身を見たんだ。


「エクスペクト・パトローナム・・」

ハリーも杖を掲げ、守護霊を作り始めた。

二人は心の中で願った。

ハリーが向こう岸で倒れた。

彼女ももうすぐ死んでしまう。







「エクスペクト・パトローナーム!!」

二人は決死の力を振り絞り、杖を頭上高く振り上げた。

目もくらむような眩しい光が湖全体を包んだ。

二人は目を一杯に開け、その正体を目の当たりにした。

確かにあの時と同じようにそれは二頭いた。

まず銀色の動物が湖目掛けて疾駆した。続いて真紅の炎に取り囲まれたオレンジ色の動物が飛び上がった。

暗い影を二頭は物凄い勢いで追い払っている。

ディメンターがあたふたと上空へと退却していった。

二頭はディメンターを隅々まで追っかけ、完全に闇へと退却させてしまった。



二頭がそろってハリー、 の目の前に戻ってきた。


「プロングズ・・・」

「グリフィン(獅子)だったのね・・」

二人はおっかなびっくりして呟いた。


水面に二頭はしっかりと立っていた。


「何をやったの!?」

その時、ハーマイオニ―がバックとビークを引っ張ってやってきた。


途端に二頭はフッと二人の目の前から消えてしまった。


「ハーマイオニ―、終わったよ・・シリウスは無事だ。」

ハリーが振り返って、満面の笑みを浮かべた。

「いったいどういうことなの?」

ハーマイオニ―が聞いた。

「分かったのよ、ハーマイオニ―。あの時私達は自分自身を見たのよ!ねぇ?」

は嬉しそうにハリーに振った。

「ああ、でも僕は父さんだと今の今まで信じてた・・ちょっと残念だな」


ハリーは少し悲しそうに言った。


「大変よ!悪いけど感傷にひたってる暇はないわ!早く時計塔に飛ばなきゃ!」


ハーマイオニ―が、ハッとしてタイムターナーを見た。

「ハーマイオニ―は私の後ろに!」

はそれを聞くと、ビークの背にジャンプしてまたがった。

「いいかい?」

バックに乗ったハリーはハーマイオニ―がビークに乗ったのを確認するとわき腹をかかとで小突いた。

二羽のヒッポグリフは地面を蹴り、一気に空へと舞い上がった。

「ああ、私こういうの苦手よ・・」

「しっかり腰につかまっててよ!!」

は鎖を掴むと、怖がるハーマイオニ―を励まして、一気に急上昇させた。下は城や、禁じられた森、

ハグリッドの小屋、競技場が点になって散りばめられた星のように輝いていた。

「あそこだ!」

ハリーはバックの首を軽く叩き、目的地点目掛けて一気に突っ込んだ。

「待ってよ〜」

はグッと首の鎖を握ると、ビークにトロット(速歩)を命じた。


ビークは上空で大きく助走をつけ、一気に何メートルも飛んで時計塔の目の前に到着した。


見えてきた!シリウスだ。


彼は頑丈な鉄格子の中に閉じ込められており、一人、絶望してしょんぼりとうずくまっていた。


「シリウース!!」

ハリーは力の限り、鎖を引き締め、ドサッと鉄格子の前に降り立った。


「ど、どうやってここに?」

シリウスはハッと顔を上げ、バックから降り立ったハリーを見つめた。


「シーリーウースー!!」

後ろから可愛らしい声がした。

「お、お嬢さん!?」シリウスはびっくりし、こちらにやって来て鉄格子をつかんだ。

ビークを暴走させ、はようやくと時計塔のてっぺんに上ってきた。


、ハーマイオニ―はビークから降り立つと、シリウスの側へ駆け寄ってきた。



「下がって!」


ハーマイオニ―は一瞬で状況を理解すると、二人の友人 をどかして杖を振り上げた。


「破壊せよ!!」


シリウスは間一髪、隅の方へ逃げた。


鉄格子が物凄い音で、簡単に引っこ抜け、横に吹っ飛んだ。ガラガラと時計塔の瓦礫が上から降ってきた。



「ハ、ハーマイオニ―?」


ハリー、 は目を白黒させて、恐ろしすぎる彼女を見つめていた。

シリウスは唖然として、その場で座っていた。

「早く、乗ってください!!時間がないんです!」

至極普通なのはハーマイオニ―だけだった。

「あ、ああ」

シリウスはハッと我に帰り、時計塔からいそいそと出てくると、バックによいしょとよじ登った。

「ハリー、後ろに」

シリウスはサッとハリーに手を貸し、バックに乗っけた。

はハーマイオニ―に急かされ、ビークに飛び乗っていた。


ハリーはバックに合図した。


シリウスは鎖をしっかりとつかみ、バックのわき腹を蹴った。


四人は再び高々と上空に舞い上がった。



二羽のヒッポグリフは軽々と翼を羽ばたかせ、城の周りを急旋回した。

シリウスはまるで少年のように歓声を上げた。

は嬉しくなって、ビークをシリウスの側へ寄せていった。

ハリー、ハーマイオニ―も後ろでそれぞれ、この爽快感を楽しんでいた。

はシリウスを見上げて、満面の笑みで微笑んだ。

彼も飛び切りの笑顔で微笑み返してきた。

そのまましばらく四人は城の周囲を自由自在に旋回していた。






ところ変わって、ようやく四人は城の裏手の藤棚のところへ到着した。

四人はヒッポグリフから降り立った。

は嬉しくて気持ちを押さえられないのか、ガシッとシリウスの右手を握った。

シリウスは少し驚いたようだったが、すかさず、 の手を握り返してきた。

そして二人は手をつないだまま、藤棚の下のベンチへと軽い足どりで歩いていった。

ハリー、ハーマイオニ―は何とも微笑ましい気持ちになってしまった。


「ハリー」

シリウスが呼んだ。

は気を利かせ、シリウスから手を離すと二人から少し離れてやった。


ハーマイオニ―も気を利かしたのかとっくにヒッポグリフの側に移動していた。


「ハリー、君はほんとうにお父さんそっくりだ・・」

ハリーはベンチに腰掛け、シリウスがその前で彼の手を握り締め、何か熱心に話しかけていた。


「行ってしまうんだね・・シリウス。」

ハリーが残念そうに呟いた。

「ハリー、だが、愛する人は肉体が滅びても、いつも君の側にいる・・それを忘れてはいけないよ」

両親の話をしたのであろう。シリウスは泣きそうになる彼を安心させるように優しく言った。

「もう、行かないと」

シリウスはバックとビークの側へ向かった。

、ハーマイオニ―が二頭の側で待っていた。

「ハーマイオニ―、君は立派な魔女になれるよ」

シリウスは彼女に微笑みかけた。そしてバックに飛び乗った。

、君はお母さんに生き写しだな・・・とても綺麗だ・・・」

シリウスはバックの背から、身を屈めると のこめかみにキスを落とした。

「気をつけてね・・・それから、これ、もらって欲しいの。」

は涙を必死で押さえながら、首にかけていた小さな懐中時計を取り出した。

「え、だが、これはもらえない!お嬢さんのものだろう!」

シリウスはシルバーの小さなあぶみのところにクリスタルの十字架がついている時計を押し返そうとした。

「いいの・・あなたに幸運がありますように・・それに道中日付が分からなかったら何かと不便だと思うし」

彼女はいたずらっぽく笑うと、無理やりシリウスの手に時計を押し込んだ。

彼の頬はほんのりと赤くなった。


「さよなら黒犬さん・・」


は彼の首に腕を回して抱きしめた。シリウスはしばらく会えなくなる彼女の温もりを楽しんだ。


「じゃあな、ハリー、ハーマイオニ―、お嬢さん!この恩は一生忘れない!」

シリウスは顔を真っ赤にして、バックとビークの鎖をつかみ、わき腹をかかとでしめた。

「また会おう!」

ヒッポグリフは飛翔した。

彼らはだんだんと小さくなって見えなくなってしまった。

三人は彼らが見えなくなるまで見送っていた。





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