ロンが姿を消してからというもの、不慣れな長旅で疲れていたの健康状態が一層悪
化してしまった。
ハーマイオニーは行き方知れずのロンの心配に加え、この女友達の容態まで心配し
なくてはならないはめになった。
それはミナ・ブラド女伯なら成長期に起こる慢性的な血液不足による
貧血症状だと説明してやれるのだが、ここにはそれを説明出来るだけの
代わりの者もいなかった。
おまけにここいらは病院や商店や薬局などが一つもないイングランド北西部の
カンブリア山脈湖沼地帯で、はますます弱っていった。
ハリーとハーマイオニーは毎晩膝突き合わせて、一刻も早く彼女を町に行かせてやり、
適切な処置をするべきだと話し合った。
その朝、ハーマイオニーは一本のモミの木に自分のマフラーを巻きつけていた。
万が一、ロンの気が変わって、自分達の足跡を辿って来るのを期待してのことだった。
ハーマイオニーらしくなくゆうに一時間は森でぐずぐずしていたが、簡単な朝食を済ませ、
ハリーに支えられてやってきたの姿を見るとぎゅっと唇を結んで覚悟を決めた。
そして、三人はしっかりと手を握り合って姿くらましした。
「大丈夫?」
ある晩、キャンバス地で仕切られたベッドの上に横たわるの側に
ハリーは付き添っていた。
彼女の顔色は昼間見た時よりさらに青白くなり、とても生きている人間の様だとは
思えなかった。
「僕の血吸ってもいいよ」
しばらくじっと考え込んでいた彼は何を思ったか、
タートルネックのセーターの襟首をめくると彼女の前に首筋を突き出して言った。
「馬鹿言わないで」
は彼のその行為に少し驚いたが、嫌そうに首を振って拒否した。
「こんなの蚊だと思えば何ともないよ。少し・・少しチクッとするだけだろ?」
だが、彼はさらさらあきらめる様子もなく、彼女の手を取ると熱っぽく囁いた。
「駄目だって・・」
「ここのところ、僕らはろくに食事をしてない」
「だから、君だけでもちゃんと取らなきゃ・・」
「やめて・・」
は弱弱しく首を振って拒絶した。
「早く吸えよ!吸わなきゃ君は死ぬぞ!」
怒ったハリーはさらに彼女に激しく迫った。
「やめて・・そんなのできっこない・・」
はすすり泣きながらも激しく抵抗した。
「一滴だけでもいいから吸うんだ!このままじゃ本当に死ぬぞ!」
「私を困らせないで。私は友達の血は吸わない!!」
は怒った猫みたいに立ち上がると、ハリーを尋常とは思えない力で
突き飛ばして唸った。
その時の彼女は下あごからむくむくと二本の牙が生え、瞳は赤く怪しく輝いていた。
しかし、激しくエネルギーを消耗したせいで彼女はどさりと仰向けに倒れ、それから
ぴくりとも動かなくなった。
「、、ねえどうしたの!?」
深い眠りに落ちていたハーマイオニーがその大きな物音で目を覚まして駆け寄ってきた。
「血が完全に足りなくなったんだ。病院へ行こう」
ハリーは毛布で首まで彼女を包みなおすときっぱりと言った。
「あそこには輸血パックが置いてある」
「それを彼女に飲ませるんだ」
「だからあれほど吸えって言ったじゃないか・・」
「全く、つまらない意地を張るなよ・・」
「うるさい・・ちょっと、どこ行く気なの?」
「決まってるじゃないか、食事取りに行くんだよ」
今、姿くらまししてイングランド北部のヨークシャー地方に移動したハリーは
を背中におぶって歩いていた。
ここはイングランド北西部から一番近い町で病院もある。
彼女は眉根を寄せて不満をたれたが、彼は意にも介さず雪が降りしきる町中をずんずんと
歩いていった。