結局、氷の精の逆鱗に触れたゴギブリ男のクリンジーは氷のアースの渦を嫌というほど
食らって、氷付けにされた上、飛び交う鴛鴦斧で全身を粉々に切り刻まれて
果てるという最も残酷な死に方に追いやられた。
一方、サンバッシュも銀河の守護戦士達の怒髪天をつく怒りに形成逆転され、
星獣剣や牙でボロボロになるまで切りつけられた。
そのどさくさにまぎれて、彼は宝箱に鍵をねじこんでまわすことに成功したが、
頼みの銀河の光はどこにもなかった。
今回、彼もまたリョウマ達同様、騙された一人だったのだ。
完全に気が狂い、前後に揺れながら泣き笑いするサンバッシュは愛用のオートバイに跨り、
リョウマとの一騎打ちに望んだ。
無論、力の差は歴然で、リョウマはオートバイから乱れ飛ぶ銃弾もなんのその、
地面を蹴って大きくジャンプすると、星獣剣と牙の二刀流飛び切りをお見舞いした。
猛スピードを出していたサンバッシュは避けきれず、勢い余って林を抜け、
絶壁からまっさかさまに渦逆巻く荒波に転落した。
「ヒュウガ・・本当に彼だと思ったのに・・」
サヤは、サンバッシュが転落死した荒波の波間を見つめながら呟いた。
氷の精もそれは同じだった。
ほんの一瞬でも彼だと信じたかった。
だが、彼女はモークの命令を忠実に遂行し、ヒュウガの姿を借りた敵に鴛鴦斧を投げつけ、
最後には無残にも死に追いやった。
「やっぱりヒュウガは・・生き返ることなんて出来やしないよ・・」
ハヤテは目にいっぱい涙をためたサヤを黙って抱きしめた。
「例え、敵だと分かっててもあの人をあんなになるまで切り裂きたくなかった・・」
氷の精はがっくりと黒い岩肌にひざをついて振り絞るように言った。
「でも、私の心が許さなかった。人の心の弱みにつけこむような奴らをどうしても許せなかった・・」
それは氷の精が初めて見せた涙だった。
「俺は嬉しかった。兄さんの仇を討ってくれて。あいつは君だからこそ倒せた」
「俺にはあいつを倒せたかどうか分からない。ずっと心が揺れたまま、サンバッシュに怒りを向けるのが精一杯だった」
泣きじゃくる氷の精に暖かい腕が伸ばされた。
それはヒュウガの実弟、リョウマの腕だった。
彼はの黒髪をかき抱き、懸命に慰めの言葉をかけていた。
ハヤテはサヤを片腕に抱きながら、複雑な思いで二人を眺めていた。
(氷の精のあの涙の訳は・・それに彼女はまさか・・)
それに今の彼女は、リョウマにヒュウガの面影を重ねてその腕に身を委ねているようにも見えた。
夢かうつつか、ハヤテはおかしなことにそこにヒュウガとの逢瀬を見せ付けられた
奇妙な感覚に陥った。
(俺はこんな時になんてことを考えてるんだ・・)
ごしごしと目をこするとハヤテは二人からさっと目を逸らした。
(これじゃまるで・・)
ハヤテはサヤを引き剥がすと、断崖絶壁で男泣きに泣いているゴウキ、唇をかみしめているヒカル
の脇をすり抜けてゆっくりと歩いていった。
「ハヤテ・・どうしたの?顔がすごく怖いよ・・」
いきなり抱擁をとかれたサヤが追っかけてきて心配して聞いてくる。
「何でもない・・だが・・」
サヤには一応、優しい兄のような笑みを取り繕ってみせるもの、それが上手く出来たか
どうか分からないほど彼は動揺していた。
「嘘だろ・・」
ハヤテは今、氷の精である彼女を想っていることをはっきりと思い知らされた。