かがり火が焚かれ、村人達が見守る中、星獣剣授与の儀式は行われた。

「第133代、炎の戦士、ヒュウガ」

リョウマの言った通り、氷の精もちゃんとこの儀式に参加しており、

祭壇に立てかけてある星獣剣を手にとって、長老に手渡す役目を果たしていた。

長老は一人一人の新しく戦士となった者の名を呼び、氷の精から

受け取った剣をその者達に授けていた。

一番、初めに名前を呼ばれたヒュウガは一礼して、剣を受け取り、

そのほかの者にもつつがなく剣が受け継がれた。

「戦士に選ばれし者達によき幸運があることを」

長老がえっちらおっちらリンボクの杖をついて下がってしまうと、

はたどたどしく儀式の終わりを飾る文面を読み上げ、手のひらをひっくり返すと

自分のアースをこめた特別なスノードロップの花びらを、五人の戦士

に向けて放った。

アイスブルー色のスノードロップの花びらがいっせいに戦士たちの頭上を舞うと、

辺りは神聖な、そして、幻想的な空気に包まれた。

スノードロップの花びらが大量に飛び交う中、ヒュウガは改めて昼間垣間見た

女の子に視線を移した。

はサヤとも他の村の女の子ともどの子とも違っていた。

何でこんな子が今まで自分達の前に姿を現さなかったのか不思議だった。

が何気なくヒュウガに視線を移した。

見る者の心まで凍り付かせてしまいそうな黒い目、透き通るような白い柔肌、美しい口元にはかすかに

ユーモアのかけららしきものが漂っているが、どことなく近寄りがたい雰囲気をかもし出していた。

交錯する二人の視線。

それはかつて、太古の昔にも見られた懐かしい光景でもあった。



「この星獣剣を受け継ぐ者、雄たけび山に眠る聖なる腕輪、銀河の腕輪もまた受けつくべし」

寒々とした大地に長老の済んだ声が響き渡った。


「星獣剣譲渡の儀式も無事に終わりましたね」

「うむ、五人とも立派な若者達・・ん?」

が長老と祭壇の前で突っ立って感慨深げに話していると、急にゴゴゴーッと大きな

揺れが雪の大地を襲った。

村の子供達の悲鳴、そして、あっけにとられていた長老の手からするりとリンボクの杖が滑り落ちた。

「長老、大丈夫ですか?」

はかがんで杖を拾おうとした老人に慌てて駆け寄って支えた。

「あ、ああ・・だが、これは・・」

長老はこれから起こる不安の嵐を予測していた。

一方、銀河の五人の戦士達は枝を大きく広げたエゾマツの下で待たせてある五頭の馬に

飛び乗って雄たけび山へと向かっていた。

、お前も雄たけび山に行くのじゃ。何か悪い予感が・・彼らに災いが降りかかるやもしれぬ」

「分かりました。では」

長老の今まで見せたことのない厳しい表情に促されて、は白馬に飛び乗った。

(どうか間に合って・・銀河を守る者達よ・・何もなければいいけど)

長老の白馬を巧みに操り、残雪を蹴散らして走る彼女もまた胸騒ぎを覚えていたのだった。


しかし、長老やの予測した通り、今、銀河を守る若い戦士達は宇宙海賊の襲撃を受けていた。

彼らの狙いは今しがた戦士達が受け継いだ星獣剣らしい。

が白馬で雄たけび山の頂上まで到達した時には、すでに彼らとの間で小競り合いが始まっていた。

「君は・・何でここに?危ないから下がってろ!」

ヒュウガは白馬から飛び降りて必死で走ってきた彼女に、敵の水兵を炎のアースで焼き討ちにしながら

叫んだ。

「長老に、あなた達が心配だからここへ行くように言われたの!」

片手を前に突き出して、氷のアースの渦を敵の水兵にぶっつけながらは答えた。

「来てみたらやっぱり!」

は黒いサッシュベルトから氷の剣を引き抜き、向かってきた水兵をざっくりと切り裂きながら

また言った。

「この腕はな、前の戦いでお前の先祖が切り落とした。どれだけ痛いか教えてやろうか?」

戦士内では比較的強いヒュウガの行く手を、宇宙海賊の親玉と思わしき人物が阻んだ。

ヒュウガは聖剣を構えたが、船長の伸縮自在なフックが彼の左腕に引っかかった。

「ヒュウガ!」

「兄さん!」

「誰だ?」

行く手を阻む水兵をつららのように飛びまわって瞬殺し、レイピアーのような細身の氷の剣で

ヒュウガを捕らえていた宇宙海賊の長く伸びたフックの鎖を切り落としたのはだった。

「貴様、見覚えがあるぞ!前の戦いでもこいつらにくっついていた氷の精だな!」

鎖を切り落とされた親分は出鼻をくじかれて忌々しそうに叫んだ。

「ここから先は一歩も通さない!」

は細身の氷の剣を斜めに構えると、宇宙海賊の親玉を睨みつけた。

「ヒュウガ、ここは私が食い止めるから早く銀河の腕輪を!」

氷の精は必死に促した。

「だが・・」

ごつごつした火山岩に倒れていたヒュウガはゆっくりと起き上がると、のか細い腕や足を見て迷った。

「兄さん、行くんだ、早く!」

ここで、山の頂から駆け下りてきたリョウマが宇宙海賊を羽交い絞めにしながら叫んだ。

だが、二人とも伸縮自在なフックや、キャノン砲に苦しめられ、仲良く返り討ちにされて火山岩

に叩きつけられた。

「氷の精、この出来損ないとともに消えろ!」

炎のたてがみも不発に終わったリョウマを指差しながら、宇宙海賊は目掛けて

キャノン砲をぶっ放した。

「危ない!!」

海賊の親玉のキャノン砲の前に弟と氷の精を守るために立ちはだかった

ヒュウガは吹き飛ばされ、火山岩に嫌というほど打ち付けられた。

そして、苦しむ彼らをあざ笑うかのごとく、宇宙海賊は岩盤をフックで叩き割り、地割れを起こした。

立ち上がりかけたヒュウガと、一瞬動けなかったは地割れの裂け目に揃って落下した。


!」

ヒュウガは落ちていくの黒いサッシュベルトを何とか掴んでぶら下がった。

「早く彼女を!」

ヒュウガはがらがらと音を立てて崩れていく瓦礫を見て叫んだ。

「何言ってるの?この人が先でしょ!!私なんかどうでもいいから早く!」

は地上深くに揺らめく溶岩に気を失いそうになりながらも叫んだ。

「兄さん!!」

リョウマは今にも泣き出しそうになって叫んだ。

「ほらほらどうした?お前達の先祖はもっと手ごわかったぜ!」

宇宙海賊の親玉が高笑いして、さらに岩盤をフックで叩き割ると地割れがさらに酷くなり、

ヒュウガとはバランスを失って、さらにずり落ちた。

地割れはいよいよ酷くなり、リョウマはどちらを引き上げてよいか分からず、ぐずぐずしていると

ヒュウガは何を考えたか、急にの黒いサッシュベルトにしっかりと星獣剣を差し込んだ。

「リョウマ、これと一緒に彼女を引き上げろ」

彼は穏やかな表情を浮かべていた。

「だめだ、それじゃ兄さんは!?」

「早く手を貸して!二人とも助からなきゃ意味がないよ!!」

リョウマは絶望的になって叫んだ。

「リョウマ、お前の力を俺は信じている・・」

ヒュウガは最後の微笑を残し、彼女と星獣剣の重みと下から湧き上がってくる溶岩の暑さに耐えかねて

そっと手を離した。そして、地底の奥深くで待ち受ける溶岩の海に消えていった。






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