赤い隕石を粉々に打ち砕かれたサンバッシュはもう用はないとどこかへ行ってしまい、
問題の子猫騒動はヒカルがさんざん森の中をさまよい、引っかき傷だらけになって
行方不明のみいちゃんを探してきたことによって解決した。
しかし、ただ漠然と姿をくらましただけのサンバッシュではない。
手下のメイカーに地震を起こさせ、海底洞窟を揺さぶり、そこに三千年も前から
隠してきた重大な秘密をこじ開けようとしていた。
「出て来い、銀河の守護戦士!!それと氷の精の姉ちゃんもな!!」
サンバッシュは河川敷をオートバイで走り回り、六連発銃をぶっ放しながら
がんがん叫んだ。
その目立ちすぎる言動があまりにもうるさいので、やる気満々でやってきた五人+仕方なくやってきた
一人は彼の暴走バイクの前に立ちはだかった。
彼は「これは何の真似だ?」といぶかしがる五人に「今は戦うつもりはねえ」と
宣言し、オートバイの後ろにくくりつけていた棺おけに六連発銃をぶっぱなして
蓋を開けた。
サンバッシュは得意げに、棺おけから引きずり出したヒュウガを見て笑った。
「こいつを見たか?誰だか忘れちゃいねえよな?」
「てめえらが驚くのも無理はねえ。だが、こいつは正真正銘生きてる本物だぜ」
「地価空洞に転がっていたのを俺が拾い上げてやったのよ。いつか利用できると見込んでな!!」
サンバッシュは乱暴にヒュウガを棺おけに戻すと、「何をする!?」
と怒った銀河の守護戦士達に水兵を差し向けて邪魔をさせた。
「氷の精の姉ちゃんよ、そいつらに伝えな。こいつを助けたければかげろう岬まで来いとな!!」
「じゃ、ベイビー、楽しみにしてるぜ!」
サンバッシュは唯一、水兵を差し向けなかったにそう言い残すと、
不適な笑みを浮かべて再び、棺おけの蓋を閉め、あっという間にオートバイで走り去ってしまった。
「あいつ・・」
はサンバッシュのこざかしい台詞に、むかむかと嫌悪感が湧き上がってくるのを感じていた。
背後ではリョウマ達が「すぐに追おうぜ!」とかなんとか言って勝手に相談している。
だが、すぐに腕輪からモークのストップがかかった。
モークは罠だと断言し、「あれは絶対にヒュウガだ」と熱くなっている五人の若者達は
突っぱねた。
「。君はどう思うね?」
五人が意気揚々と走り去ってしまうと、モークは一人残ったに冷静に尋ねた。
「確かにあの人は・・私の命の恩人です。ですが、あの悪党の胸糞悪い笑い方がどうも気になって・・」
はちょっと考え込んで自分の複雑な心境を吐露した。
「そうか。なら、リョウマ達とは別に密かに奴らの真の目的を探ってくれ」
それを聞いたモークは安心したように言った。
波しぶきが砕け散るかげろう岬では、痺れを切らしたサンバッシュが腹いせに
人質のヒュウガの横っ面を張り飛ばしているところだった。
すでに、ごつごつした岩の陰に隠れて待機していたサヤは目をおおった。
ヒカルはかっとなって飛び出そうとし、ハヤテがそれを制止していた。
ハヤテが抜き足差し足で、花崗岩の上をうろついている水兵の足をなぎ払い、
藪の影からサヤが木製スリングをはじいた。
サンバッシュの足元で球が爆発し、驚いた彼ははじかれたように立ち上がった。
そして、それを合図にいっせいに隠れていた場所から銀河の戦士たちが飛び出して
ワーッとこちらに向かってきた。
「てめえら、こっちには人質がいるんだよ!忘れてるんじゃねえだろうな?」
頭にきたサンバッシュは、銃口を広葉樹の幹にもたれかかるヒュウガに突きつけて脅した。
「そんなことは分かってんだよ!」
反駁するヒカルを先頭にサヤ、ゴウキ、ハヤテ達は戦闘衣に変化し、
いっせいに水兵やサンバッシュめがけて襲いかかった。
皆が急な岩場で派手にぶつかっている隙に、リョウマは藪から躍り出て
捕らわれの兄の側に来た。
ちょうどその時、がさがさと広葉樹の木の枝が揺れて、ヒュウガの前に
がばさりと飛び降りてきた。
「!今までどこにいたんだよ?」
リョウマはびくっとして、手にしていたブーメランを危うく取り落としそうになった。
「あのねえ・・もともと精霊は神出鬼没なの!」
は氷柱の剣を黒いサッシュから引き抜くと、ヒュウガを縛っていた鎖を
えいやっと切り落とした。
リョウマはそれもそうかと我に返り、ヒュウガの手首についていた手枷をむしりとった。
「兄さん、兄さん!しっかりしてくれ!」
リョウマは一心不乱に兄に呼びかけ、その体を揺さぶった。
「ん・・リョウマ・・か?」
「兄さん!!」
リョウマはぱちりと目を開けたヒュウガを抱きしめて嗚咽を漏らした。
「リョウマ・・今まで心配かけたな」
「それに・・また会えて嬉しいよ」
自分に取りすがるリョウマを片腕で抱きながら、ヒュウガはあの優しい微笑を彼女に向けた。
「ヒュウガ・・本当に無事でよかった・・」
その微笑に一瞬、心が傾きそうになっただったが、モークの「これは罠に違いない」との言葉を思い出し、
何とか踏みとどまった。
それからヒュウガは変なことを言った。
この近くにある断崖の洞窟に行けと。
リョウマもも耳を疑った。
「リョウマ、、早くヒュウガを連れて行け!!」
そんな時、怒り狂うサンバッシュを必死で羽交い絞めにするハヤテの声が後ろから響いた。
三人は互いに顔を見合わせると、さっと立ち上がった。
どこまでも続く緑の絨毯とそれを取り囲む常緑樹の木々。
こんなにも平和な光景なのに、今、負傷したヒュウガを支えながら走るリョウマ、は
追跡者に追われていた。
リョウマは思い切って近くの茂みに飛びこみ、兄とを匿って、水兵達が通り過ぎるのをじっと待った。
ヒュウガの息があがり、彼はとてもしんどそうだった。
「そこら中奴らに囲まれてる。どうする?それにこの人の傷の手当てもしなければ・・」
はこっそりと茂みをあさって、殺気立った水兵達が目を皿のようにしてうろついているのを
確認してささやいた。
「早く、早く洞窟へ行くんだ、リョウマ・・あそこには・・三千年前ある星から持ち込まれた大きな力・・銀河の光が・・」
ヒュウガは息を弾ませながら切れ切れにつぶやいた。
それから彼はサンバッシュの真の目的についても話した。
持つものに強大な力を与える銀河の光で、眠れる魔獣を呼び起こすつもりだと。
「それにあの洞窟の扉は、アースを持つ者がいなければ開かない」
ここでヒュウガはいつになく、熱い眼差しで二人を見据えて言った。
がさがさと背の低い潅木がかき分ける音がして、水兵が剣を手に手に飛び出してきた。
向かってきた一人の水兵の剣を三人はさっと左右に分かれて避けた。
堆積した枯葉の積もった地面に転がったリョウマは、覆いかぶさってきた水兵を
横におしやり、立ち上がって膝蹴りをお見舞いした。
はヒュウガの前に立ちはだかり、黒いサッシュベルトからレイピアーのように細い氷柱の長剣を引き抜くと、
水兵の喉笛目掛けて一突きにした。
「兄さん、こっちだ!」
ようやく水兵をぶちのめしたリョウマが駆けつけ、兄の肩に腕を回して連れ去った。
リョウマは曲がりくねった広葉樹の幹にヒュウガを休ませた。
「リョウマ、早く行け。ここは俺とで食い止める」
「無茶苦茶だ!そんなボロボロの体でどうしろっていうんだ?」
ヒュウガは穏やかに言った。だが、リョウマは承知できないと食い下がった。
「洞窟へは兄さんが行くべきだ。俺とが奴らを足止めにしてる間に・・」
「サンバッシュの狙いはお前達だ。なぜなら、俺にはもうアースはないんだからな・・」
ヒュウガはリョウマの肩をつかんで、どこか寂しそうに告げた。
「あの地下空洞に流れる灼熱の溶岩は、俺の力すべてを奪い去った」
「今の俺は、もう戦士なんかじゃない」
その言葉にリョウマは絶句し、はますます疑惑を強めた。
あまりにも話が上手すぎる。それにサンバッシュの手下が間隔を空けて、ちょっとずつ追ってくるのも気になった。
そんなことを思っていると、水兵の一人が剣を振り回して突っ込んできた。
はさっと上体を低くして、背後に隠し持っていた鴛鴦斧のワイヤーをくいっと引っ張った。
途端に鴛鴦斧の一片が発射され、勢いよく走ってきた水兵の右肩に突き刺さった。
彼女はさっとワイヤーを引っ張ると、鴛鴦斧を倒れた水兵の肩から引き抜いて、自らの手元に戻した。
そして、後から後からかけてきた水兵どもをにらみつけた。
負傷したヒュウガも一本背負いで向かってきた水兵を投げ飛ばし、は一対の連結させた鴛鴦斧
を盾代わりに使い、次々とやってくる水兵達の剣の攻撃を弾き飛ばしていた。
「行け!リョウマ、早く行け!銀河の光を奴らより早く!!」
ヒュウガの声にリョウマは後ろ髪を惹かれる思いで駆け出した。
だが、をたった一人で置いていくべきではなかった。
なぜなら、彼らはすでにサンバッシュの仕掛けた罠にはまっていたからである。
(女を殺せ!)
ヒュウガはここで一人の水兵の腕を押さえながら目配せした。
途端にワーッとあちこちの茂みをかき分けて水兵達が飛び出し、の行く手を阻んだ。
「しまった!」
は鴛鴦斧を手に、戦闘の構えを取ったが、ヒュウガはにやりと笑い、くるりと彼女に背を向けると
森の奥へと駆けて行ってしまった。
その頃、リョウマは洞窟の封印を炎のアースで解き放ち、鉄の檻に幽閉されていた宝箱の鍵を
星獣剣でたたき割ったところだった。
だが、リョウマは背後から力強い一太刀を浴びせられ、さびついた檻をつかんでくず折れた。
「よう、兄弟。ご苦労だったな」
ヒュウガはリョウマの手から転げ落ちた宝箱を拾い上げると、鼻で笑った。
「兄さん、なぜこんなことを?それにはどうしたんだ!?」
リョウマは無様に床に転がりながらうめいた。
「さあ、どうだろうな・・気になるか?」
ヒュウガは嫌な微笑を浮かべ、リョウマの顔面を蹴っ飛ばすと意気揚々と立ち去ってしまった。
「兄さん!!!」
後にはリョウマのむなしい叫びが残された。
一方、その頃、は水兵達と対峙していた。
完全に頭に来た彼女は、一歩、後ろに下がると氷柱の長剣を斜めに構えて踏みとどまった。
「いつもいつも数ばかり繰り出して!!」
六人の水兵を相手に彼女は、乱れ乱れに飛びかかってきた順に切り殺していった。
最後の一人の足を地面まで刺し貫いて動けないようにしてから、は黒皮のブーツでつかつかやってくると
水夫の首に冷たい剣の切っ先を突きつけながら言った。
「全て白状なさい。あいつは本当にリョウマの兄のヒュウガなの?」
「い、言えないっス!」
水兵は腐っても海賊であり、簡単には上官を裏切ったりしないらしかった。
「そう・・じゃあなたにもう用はないわね」
はうつぶせに倒れている水兵に、容赦なく剣をちらつかせながら脅した。
「い、言う!言うっス!あれは俺達が用意した偽者っス!」
水兵はさすがに命が惜しくなったらしい。苦し紛れにヒュウガの正体を暴露した。
「よくもこの私と、あの可愛そうな人をだましてくれたわね」
の目がぎらりと危険な光を帯び、次の瞬間、水兵は首を氷柱の剣で一突きにされていた。