今宵は満月。
ネオンのきらめく都会のハイテクビルに一人の男が降り立った。
群青色の三度笠に木綿の道中袴を身に着けた
エチゼンクラゲのような容姿の男は、頭に被っていた三度笠を脱ぎ、そこからもう一つの
三度笠を取り出すと、夜景の綺麗な街目掛けて投げつけた。
モークの悪い知らせで、夜の闇をかき分けてやってきたリョウマ達は
国際会議場の広いエントランス付近で倒れている人々を発見していた。
サヤが若い女性の額に手をやった時、その体温が異常に冷たいことに気づいた。
おまけに倒れているのは人だけではなく、たまたま現場近くをうろついていた野良猫も
犠牲になっていた。
リョウマ達がこれはいったいどうしたことだろうと首を傾げていると、
エチゼンクラゲのような長い触手が垂れた三度笠がふよふよと
飛んできて、彼らを攻撃した。
ハヤテは槍のように飛んできた無数の冷たい針を星獣剣で打ち返し、ネオンの煌く飲食店街とは
反対側の暗がり目掛けて駆け出した。
仕掛け人は思ったとおり、宇宙海賊の一人、氷度笠で、彼は手下の水兵どもを
繰り出した。
リョウマは一人勇ましく氷度笠に切りかかかっていったが、無残にも肩や胸に
三太刀も浴びせられてしまい、彼が口から吐き出した冷たい毒針を
喉笛に食らってしまう。
水兵達を片付けて一目散に駆け寄った四人も運悪く敵に背中を向けてしまい、
毒針を一気に食らってくずおれた。
「深い眠りに誘ってしんぜよう・・」
氷度笠は意味深い言葉を呟き、刀を鞘にすちゃりと収めた。
「あいつは!」
「待て、今は行くな!!」
「馬鹿、放して!!何するのよ!?」
リョウマ達が謎の毒針でのた打ち回っている頃、途中で落ち合った黒騎士とともに駆けつけてきたは
三度笠を目深に被り、逃げの姿勢を決め込もうとしている氷度笠を
追おうと一歩踏み出した。
だが、黒騎士が彼女を後ろから羽交い絞めにして動きを止めた。
「これはこれは・・このような所で仲間割れをしている場合か?もうすぐ奴らは死ぬぞ」
があまりにぎゃあぎゃあ騒ぐので、その声を聞きつけた氷度笠は
悠々とコンクリート塀の影に隠れていた二人の前にやってくると
にやりと笑った。
「うっ!」
黒騎士にがっちりと羽交い絞めにされていたので、氷度笠の吐き出した
毒針を避け切れなかったは、首筋に一針食らってくずおれた。
「!」
黒騎士ははっとして、慌てて彼女を拘束していた両腕を放した。
「だから放せと・・全く余計なことを・・」
は恨みがましく彼を睨みつけると、片手で刺された首筋を押さえたままばたりと倒れた。
翌朝、リョウマがツツジの咲き乱れる公園まで浮遊する三度笠を追ってくると
真っ向から、シャッと投げナイフが飛んできて行く手を遮った。
リョウマは難なく投げナイフを叩き落し、頭に来て前方を睨みつけた。
「黒騎士、それに・・何故二人が一緒に?」
「リョウマ・・」
驚きのあまり目を大きく見開いた彼に、はぎくりと強張った。
「昨晩、この女も奴の針に刺されたが、どうやら異状はなかったらしい」
黒騎士はそんな彼に何の感情もなくさらさらと言ってのけた。
「あなたが余計な手出しをするから、氷度笠を取り逃がしたんじゃないの!!」
「私一人なら確実に捕まえてた・・」
はむっつりと黒騎士を睨みつけながら、恨みがましく文句を垂れた。
「今、海賊どもの邪魔をされては困るんだがな」
黒騎士はの乱れ飛ぶ文句を聞き流すと、怒り心頭でやってきたリョウマに注意した。
「決まっている、銀河の光を貰い受けるためだ。この機会に奴らのお膳立てを利用し、奴はその後で消す」
「そんなことをしたら皆、凍えて死んでしまう。退いてくれ!!」
リョウマは肩で黒騎士にぶつかっていったが、向こうも肩で押し返したあげく、たちまちブルライアットの
刃先を突きつけられてしまった。
「多少の犠牲は仕方ないだろう・・」
黒騎士がそう呟いた時、喧嘩している二人の頭上をあざ笑うかのごとく氷度笠が飛んでいくのが
見えた。
「何が・・何が多少の犠牲だって?」
リョウマは怒りでぶるぶると震え、きつく拳を握り締めていた。
「氷度笠は私が!リョウマ、そのおせっかいは任せたから!!」
はもう我慢できないとくるりと背を向けて、その前に彼に一言放っておいた。
「おい、貴様、勝手に動くな!!」
「彼女の邪魔はさせない!銀河転生!」
焦った黒騎士は、浮遊する氷度笠を追って、一目散に駆け出した彼女を
止めようとしたが、完全にぶち切れたリョウマに行く手を阻まれてしまった。