遠い遠い昔、春の女神(春の妖精、赤い魔女)であるが封印され、
長い長い冬に支配されている国があった。
その国はナル二アといい、冬を好む白い魔女がやってくるまでは
魔法と笑いが絶えない妖精や動物が仲良く暮らす春のような国だったのだ。
ある時、白い魔女は「春の祭り」の最中にやってきて祭りに参加していた
妖精や動物を次々に石に変えてしまった。
白い魔女は、衣を振り乱し逃げ惑う腹違いの妹、も石にしようとしたが、
わずかながら肉親の情が残っていたため、完全に石にすることは出来ず、
やむをえず、生き残った者たちへのみせしめとして彼女を
氷付けにし、タムナス家の近くにその彫像をおいたのだった。
それから何年もの時が流れた。
彼女の彫像はまるで眠っているかのようにそこに立っていた。
遥か異国から予言の者達がやってくるまでは。
ぺペンシー四兄妹は案内人のビーバーの手引きで、壊され、略奪されたタムナス家の道を歩いていた。
あたり一面は雪と氷が支配する銀世界で、ミンクのコートが手放せない寒さである。
「早く、こっち、こっちです・・」
年置いたビーバーは息をはずませながら言った。
「何だ?」
「何、これ?」
「私と同じぐらいの女の子が閉じ込められてるわ」
「死んでるの?この人動かないよ・・」
ピーター、エドマンド、スーザン、ルーシーは口々に分厚い氷の壁に閉じ込められた
少女に驚愕してつぶやいた。
「死んじゃあいません。我々生き残った者達へのみせしめの為に魔女がこうしたんです。
生きたまま永遠の闇をさ迷うようにね・・」
年老いたビーバーはそうやって悲しそうに説明しはじめた。
ぺペンシー家の年頃の男の子たちが見惚れたのもそのはず。彼女は腰まで届く長く真っ直ぐな黒髪に野ばらや野菊で作った花冠をいだき、古代ギリシャ風の紅絹の
ゆったりとした衣装をまとい、淡い真珠のブローチを両肩にとめていて青ざめてもなお、輝くばかりの美しさだったからである。
「どうか彼女を助けてください。予言の者のあなたがたなら助けられます」
「でも、どうやって・・こんな分厚い氷を・・」
ぺペンシー兄妹の長女、スーザンが困ったように言うと、長男のピーターが
氷の彫像に見惚れていた次男のエドマンドを押しのけ、手のひらを
かざし、氷の彫像の頬の部分に触れた。
するとしゅうしゅうと湯煙を立てて、氷の彫像は内側から赤い光を
帯びて砕け散り、中から美しい少女が現れた。
意識のない少女はピーターの腕に倒れこみ、周りでこの光景を見ていた皆は驚いて
かけよった。
「ああ・・なんてことだ。予言どおりだ!一人の王が春の女神を冬の呪縛から開放するとな!」
感極まったビーバーはハンカチを取り出し、涙ぐんだ。