ピーターは脱臼した肩をエドマンド流の荒療治でに直してもらい、

ミラースは先ほど刺された左足をグローゼル将軍に手当てしてもらっているところだった。

やがてピーターは痛そうに顔をしかめながら、エドマンドから

長剣を受け取ると再び戦いの場に赴いた。

さいは投げられた。

ピーターは先手必勝とばかりに走っていくとミラースに切りかかった。

ミラースはそれを盾で避けて押し返すと、逆にピーターの剣を上から叩き落そうとした。

ミラースはそのまま勢いに任せてピーターの綺麗な顔や胸を盾でガンガン殴りつけた。

ピーターの鋭い悲鳴。それでも彼は負けじと長剣の二振りでミラースを仕留めようとする。

しかし、またもやミラースに盾で吹っ飛ばされ、

近くにあった花崗岩の岩に顔をぶっつけてしまう。

倒れこんだピーターにミラースの長剣が迫ったが、彼は寝技をかけ、相手の足をな

ぎ払うと転倒させた。

隙が出来て起き上がったピーターは、何とか起き上がったミラースの剣の一振りを

丈夫な篭手で受け止め、今度は真正面からぐいぐい攻めた。

しかし、何度力任せに長剣を叩きつけてもミラースががっちりと盾で防ぐため

思うように攻撃出来ない。

そのうちにわき腹を狙って差し込んだ長剣をミラースに抑えられてしまい、

ピーターは何度も横っ面を素手や盾で張り飛ばされた。

悶絶するような痛みに苦しむピーターはミラースに突き飛ばされて、

またもや先ほど顔をぶつけた花崗岩に押しやられた。

ミラースはすかさず落ちていた長剣を拾い、ピーターの上に振り下ろした。

ピーターは間一髪、それを身体を捻ってよけると再び向かってきた

剣の二振りを篭手で跳ね除け、ミラースの横っ面にパンチを食らわした。

そして、渾身の力をこめて、ミラースの左足の傷口目掛けて拳を振り下ろした。

この渾身の一撃で形成は一気に逆転した。

ミラースは初めてけたたましい悲鳴を上げ、「休憩だ!」と敵の騎士にのたまった。

「頼む、休憩だ・・」

なおも長剣を構えて迫るピーターにミラースは懇願するように言った。

「そいつに騎士道精神をかけるな!そんな価値なんてない奴だ!」

エドマンドはピーターの悪い癖を見越して忠告した。

ピーターは荒い息をして、憎しみのこもった目つきでミラースを見下ろしていたが、

結局は弟の忠告を受け入れて握り締めていた拳を下ろした。

ピーターはそのまま手負いの敵に背を向けて一歩踏み出そうとした。

その時だ。

「兄さん、後ろ!」

「剣が!」

油断なく周囲を注視していたエドマンドとが揃って叫んだ。

どこまでも卑怯なミラースは、負けたと見せかけて背後がお留守になった

ピーター目掛けて長剣を振り上げて襲い掛かった。

彼は味方二人の鋭い悲鳴に素早く気付くと上体を反らして凶器を避けた。

ピーターはそのまま下方に向かってきた敵の長剣を分捕ると、くるりと回転して

ミラースの右脇にそれを差し込んだ。

ミラースは驚きと失望のあまり、空を仰いでうずくまった。


ピーターは怒りのあまり、肩で荒い息をしながらミラースの剣を持って佇んでいた。

「どうした、若造?」

「私を殺せまいか?」

ピーターの瞳の中に僅かな迷いの色を読み取ったミラースは

そう言うと彼の心を揺さぶった。

「それは僕の仕事じゃない」

敵の首領にまで自らの心の動揺を読み取られたピーターは歯をぎりぎりといわせて唸った。

結局、その役目はカスピアンに任されたのだが、彼もミラースの首元に

剣をつきつけたものの、命まで奪うことは出来なかった。

「私は人殺しの叔父上とは違う」

耐え難い怒りに駆られてカスピアンは言った。

「彼女は叔父上をすぐにでも殺したいだろう。だが、私の顔に免じて

 生かしておくことにする」

「そして、ナルニア国は女王とその住民達に返す」

彼は今や実質的な支配者となった彼女の方を振り返ると、

憎き血族に向けて言い放った。

勝ったのだ。

は自分の下にやってきて恭しく臣下の礼を示した

カスピアン王子を眺め下ろしてほっと胸を撫で下ろした。

たちまちその光景を目にした住人達から大歓声が巻き起こった。

一方、御前試合の敗者側である敵陣営でもグローゼル将軍やソベスピアン卿が

密かに胸を撫で下ろすありさまだった。

「終わったよ」

「ありがとう。ピーター王。森と私の民を救ってくれ・・」

心中誠に穏やかでない彼にはねぎらいの言葉をかけていた。

エドマンド王もカスピアン王子の背中をよくやったといいたげに軽く叩いた。

その時だ。悲痛な呻き声が上がった。

ミラースだ。

ソベスピアン卿の手を借りて陣営に戻る彼は裏切りにあったことが

誰の目にも分かった。

その証拠に彼の左腰には、スーザン女王のものである赤い矢が深々と突き刺さっていたのだ。

ミラースは苦しむ間もなくあっさりと事切れていた。

カスピアンとの顔がさっと曇り、ピーター、エドマンドは

身近で見る背信行為にショックを隠せなかった。


「裏切りだ!見ろ、奴らが国王を殺した!」

手負いのミラースを隠し持っていたスーザンの矢で殺したソベスピアン卿は

残忍な笑みを浮かべていたが、突如、真顔に戻り、背後で待機する

テルマールの軍人達に聞こえるように大声で叫んだ。

「嘘よ!これは罠よ!奴らが勝手に自分達の王を殺したのよ!」

敵側がでっちあげたあまりにも荒唐無稽な事実に

金切り声を上げて反論した。

「全員戦いの用意をしろ!」

ピーターがうろたえる若き女王に先立ってナルニアの住人達に指令を出した。

「ピーター、来るぞ!」

カスピアンが警告した。

国王を殺されたことに腹を立てたテルマール人の騎士が、ナルニアの総司令官である

ピーター目掛けて切りかかったのだ。

彼はすぐに長剣の三振りでばっさりと騎士を斬り殺すと「皆に伝えろ!」

とアナグマに託して走らせた。

それを合図にカスピアンとはさっと持馬に跨った。


「武器を取れ、テルマール兵!」


こちらも馬に跨ったグローゼル将軍が緑のムアを駆けて行き、

大勢の軍人達に指示を出しているところだった。

「撃ちこめ!」

旗手がテルマールの黒い国旗を打ち振ったかと思うと、

投石器から巨大な丸石が発射された。

丸石はちょうど先ほどまで御前試合が行われていた神殿跡に落ち、あたりはもうもうと

砂埃が舞い、クレーター上に地面がえぐられた。

「騎兵、攻撃せよ!」

何発もの丸石がナルニアの遺跡跡に打ち込まれる中、グローゼル将軍の声が轟いた。
































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