「サスケさん、こんな山寺へようこそ」
石段の頂上では徳の高そうな和尚様が、小僧っ子に手を引かれた彼をにこやかに迎えてくれた。
その背後を、茸で一杯になった竹篭をしょった何人もの村の女衆が通過していった。
「あれはな、わしが新しく見つけた茸じゃ」
久方ぶりの再会に積もる話がつきない和尚だったが、ここでおやと
向こうの寺の手水舎で水を飲んでいる彼女を見とめた。
「あの娘はお前さんの友達かね?」
「え?ああ、はい、彼女、って言うんです」
サスケは照れくさそうに鼻の頭を掻きながら答えた。
「沢の水は都会の水と違うの。お前もお飲み」
は水色のバケツに猫用の飲み水を溜めてしまうと、アメリカンショートヘアーの
迷い猫の前においた。
猫はピチャピチャと音を立てて、新鮮な沢の水をバケツから飲んだ。
「おお、そうかそうか・・というのか」
「和尚様、それが何か?」
「いや、親戚に同じ年頃の娘がいての。ついぞ思い出したまでだ」
今や和尚は気もそぞろ、手水舎で猫と戯れるこげ茶色の髪の少女に釘付けになっていた。
(を見た時の和尚様の様子がどうもおかしい。俺の勘違いじゃなければいいが、このじいさんはいったい・・)
サスケは斜め前に素早い視線を飛ばし、不審そうに眉を寄せた。
それを裏付けるかのように下山した鶴姫達もさんざんな目に会っていた。
セイカイが変な仕掛け罠に引っかかったり、自分たちめがけて農作業服を着た村人達が
いきなり鎖鎌を投げつけてきたりとだ。
「優しそうな和尚さんだったね〜」
「ああ・・」
夏の終わりを告げる木漏れ日が柔らかく二人を照らしていた。
石段を降りるの顔は実に晴れやかだったが、対するサスケはどうも腑に落ちないところがあった。
「どうしたの?変な顔して」
「やっぱり俺の勘違いかな?」
「えっ、何が?」
顎に手をあてて考え込む彼に、はわけがわからないというふうに見つめた。