<僕の夏休み> 三女:陽子 その5

 

 

薄桃色の乳首に唇を這わせると、攻守が逆転した。

ブラジャーの話では一枚も二枚も上手だった女の子が、急に可愛い声であえぎ始める。

「ひあっ……そ、そんな、い、いきなり……」

陽子がびくんと身体を反らせた。

大きく口をあけて、陽子のおっぱいを口に含む。

交互に吸いたてると、陽子は身もだえして感じ始めた。

「……」

ひとしきり胸を吸いたてたあと、僕は陽子の浴衣の裾を割った。

「あ……」

何をしようとしているのか悟った陽子が、狼狽してさらに顔を赤らめる。

「見ても、いい?」

「……うん」

陽子は、両手で顔を覆いながら承諾した。

ブラジャーとお揃いのショーツは、これも陽子のお気に入りなのだろう。

そっと手をかけて、ゆっくりと下ろす。

陽子がちょっと腰を浮かして脱がしやすいようにしてくれたので、

僕は抵抗なくそれを引き下ろすことに成功した。

「……!!」

「〜〜〜!!」

見る側と、見られる側。

陽子と僕は、お互い無言で息を飲んだ。

「これが……陽子の……」

日焼けしている分、水着の跡はなまめかしいほど白い太ももの奥で、

陽子の性器が僕の視線を待っていた。

肌の色よりちょっとだけ色づいた薄桃色。

可憐な花園は、文字通り、まだ誰にも荒らされたことのない処女地だった。

子供の頃、陽子とは、何度もいっしょにお風呂に入ったけど、

こうしてまじまじと見るのは、もちろんはじめてだ。

「……ぬ、濡れてる……」

僕は、脱がしかけたショーツの内側から透明な粘液が糸を引いて伝っているのに気がついた。

「は、はずかしいこと言わないでよぉ……」

感触で自分でも気が付いたのだろう、陽子が消え入りそうな声で答えた。

 

「感じやすいのかな、陽子は……?」

陽子は両手で顔を覆ったまま、「あ、彰の馬鹿……」と呟いた。

指の間から、真っ赤な頬と、潤んだ瞳がちらちらと見える。

視線が合った瞬間、僕は強い衝動に取り付かれた。

広げた太ももの合わせ目に、顔をうずめる。

「なっ、あっ……きゃあっ……」

陽子があわてて膝を閉じようとするが、僕の動きのほうが早かった。

僕は、陽子のあそこに口付けをした。

「〜〜〜!!」

陽子は、腰の辺りを魚のように跳ねさせたが、すぐにその動きは小さくなった。

僕の舌が陽子の性器をなぞる。

陽子の動きは、動きではなく、小さな痙攣に似たものにかわった。

ぴちゃぴちゃ。

ちゅぷちゅぷ。

子猫がミルクを舐めるときのような音を立て、僕の唇と舌が陽子の大事なところを這った。

女の子のあそこを舐める。

──子供の頃からいっしょに育った僕らは、いわゆる悪ガキ時代にそんなことを何度も話題にしたことがある。

「ちんこ、まんこ」は小学生のらくがきの常連だし、セックスと言うものを知らない子供にとって、

第一の性衝動は、異性のあそこ──自分の持ってない性器への好奇心だ。

「大人になったら、男の子は女の子のあそこを舐めるんだって!」

陽子が無邪気な様子で言い放った「大人の秘密」に衝撃を受けたのはいつの頃だったろうか。

その日の夜、ちょっとどきどきした僕が夢想した「大人になってあそこを舐める相手」は、

憧れの美月ねえでも星華ねえでもなく、――陽子だった。

それは、今、現実になっていた。

陽子の匂い、陽子の味。

それは、僕の嗅ぎなれた陽子の体の匂いを何百倍にも濃密にしたものだった。

「あっ……あっ……。あ…きら、だめ、恥ずかしいよぉ……」

僕にあそこを舐められている陽子は、身体を小刻みに震わせながら小声で呟いた。

「……」

僕はそれに答えず、代わりに陽子の中に舌を深く差し入れた。

 

「ひっ……あああっ……」

陽子がびくっと身体を震わせる。

口を大きく開けて、陽子のあそこにぴったりと合わせる。

じゅるちゅるちゅるじゅる。

「ひあああっ……!!」

陽子の内側にたまった透明な蜜をすすりたてると、陽子は僕の頭を掴んで身体をのけぞらせた。

「あ、あうぅぅ……」

はぁはぁと息を切らせる陽子は、陥落寸前だった。

僕は、仕上げに取っておいた部分に唇を向かわせた。

「……そ、そこは、だめぇ……」

陽子はいやいやをするように首を振った。

でも、それが拒否のものでないことを、陽子は口以外の体のすべてで表現していた。

ゆっくりと僕はそこに顔を近づける。

薄いピンク色の、柔肉で出来た真珠に口付けをした。

「あっ、やっ、……ひぃっ!!」

陽子が浮かせた腰をがくがくと震わせる。

真珠を包み込んで守る、柔らかな甘皮ごと舌先で転がすと、その震えは全身に広がった。

「だ、だめっ……あ…きら、わ、わたしっ……」

「──いいよ、陽子。僕の前でイって見せて……」

「ぁああぁっっっ!!」

シーツを握り締めた陽子の身体に力が入り、がくっと抜ける。

僕は、僕の可愛い陽子が達する姿をはじめて目にして、うっとりとなった。

もっともっと陽子を歓ばせたい。

僕は陽子の性器から口を離した。

一度絶頂に達した陽子の負担にならないように、

マッサージのようにゆっくりとした全身への愛撫に動きを切り替える。

太ももや、わき腹や、首筋に手を伸ばす。

髪の毛を梳くと、陽子は「ああ……」と切なげな声を上げた。

今にして思えば、どうして「今はそういう愛撫のほうがいい」ということがわかったのだろうか。

──不思議なことではないのかもしれない。

僕と陽子は、何でも──知らないはずのことでさえも──お互いがわかっている。

自分で行なう自慰と同じくらいに、相手の身体がどうすれば歓ぶのかがわかるのだ。

 

「ふわ……イっちゃった……イかされちゃったよぉ……」

とろりと潤んだ瞳で、陽子が僕を見つめる。

「……陽子……」

「なぁに、彰……?」

「すごく可愛かったよ」

「ば、馬鹿ぁ……」

焦点の合いはじめた目で僕を軽くにらんだ陽子は、僕の股間へ手を伸ばした。

「おかえし──えいっ!」

陽子の手でズボンの上からきゅっと掴まれて、僕の背筋に電気が走った。

「うわっ、ちょ、ちょっとタイムっ……!」

「だぁめ。タイムなーし。やられたら、やりかえす。――それがあたしたちのルールでしょ?」

「そ、それは、そうだけどっ!」

まさかここで、絶対不可変の掟を持ち出してくるとは思わなかった。

陽子が、自分の上にのしかかる体勢の僕のズボンを器用に脱がせて行く。

僕は、腰を引いて逃げようとしたけど、かえってそれが脱がしやすくしてしまった。

「あはっ、彰、すごく元気……!!」

パンツを突き破らんばかりにいきり立っている僕の股間を見て、陽子がくすくす笑った。

「しょ、しょうがないだろっ……」

「うふふ、嬉しい。あたしのを見て、そんなになってくれてるのね」

陽子は心底嬉しそうに笑った。――図星。僕は真っ赤になった。

「しょ、しょうがないだろっ……」

もういちど、同じことを呟く。

そう。しょうがないことだ。

世界で一番好きな女が、裸になって目の前にいるんだ。

交わって、子作りしていい、と言っているのだ。

男のあそこがいきり立つのもしょうがない。

僕のおち×ちんは、僕よりもずっと素直で表現がストレートなんだ。

僕が僕の気持ちに気がつく前、ことの一番はじめから、

こいつは「そうするべきだ!」と自己主張して止まないでいた。

いよいよというこの時、限界をふたつみっつぶっちぎっていてもおかしくない。

「熱い……それにすごく硬いのね……」

パンツ越しにさすりながら、陽子が戸惑いと興味のないまぜになった視線を送る。

愛しの姫君に見つめられた騎士は、もう一段階限界を突破したかのように鎧を硬くした。

 

「……パ、パンツ脱がしてもいい?」

「うん……」

陽子は僕のトランクスを脱がそうとしたけど、

天を向いてそそり立つおち×ちんに引っかかってなかなか脱がすことが出来なかった。

「あ、脱げたっ……」

やっとのことでパンツを下ろすと、僕の性器は下腹にくっつかんばかりの勢いでそそり立った。

「……」

「……ど、どうしたの?」

「お、大きいのね……」

「そ、そう?」

「前にお風呂で見たときのと全然違う……」

「いや、あの頃は子供だったし……」

「か、形も全然違うのね」

「いや、まあその……」

「触ってもいい?」

「うん……」

僕の脈打つ分身に陽子の手が触れる。

「うわあ……」

陽子が感嘆の声を上げた。

「い、石みたい……男の人のこれって、こんなになるんだ……」

「うう」

陽子の柔らかな手は暖かいけれど、火を噴出さんばかりに熱を帯びた僕の性器にとっては

それはひんやりとした心地よい感触を与えた。

「……」

「……」

「……し、しよっか?」

「うん……」

うなずいた陽子は、ひどく真剣な顔で僕の性器を握りしめた。

「あたしの中に、これが入るんだね──」

「こわい?」

「ううん。――だって、これも彰だもん……」

くすりと笑った陽子は、僕のおち×ちんの先端にちゅっとキスをした。

 

「……」

「……えへへ」

いつのまにか浴衣を脱ぎ捨てていた陽子は、布団の上に身体を横たえた。

腿を立てて大きく開く。

僕もTシャツを脱ぎ捨て全裸になった。

「来て──彰……」

「うん」

僕は陽子の裸体の上に重なった。

「ここ、かな……?」

「うんっ……そこ……」

「陽子、い、いくよ……」

「彰、来て……」

つるり、とした感触とともに、僕の先端は陽子の中に沈み込んでいた。

「あうっ!」

陽子の中は、たっぷりと蜜で潤っていたけど、途中で肉の抗(あらが)いに会った。

「だ、大丈夫か、陽子」

「んふうっ……だ、大丈夫……」

陽子は、目を閉じ、ちょっと眉をしかめて深呼吸した。

はぁ、ふぅ。はぁ、ふぅ。

何度目かの深呼吸の後で、陽子は目を開いた。

僕のお尻に手をまわすと、ぎゅっとそれをひきつける。

同時に自分でも足を突っ張らせて腰を浮かせ、僕の下半身に密着した。

潤んだ肉を割って、僕は、陽子の一番奥へ入り込んだ。

「よ、陽子……」

「えへへ──志津留陽子、たった今、志津留彰のお嫁さんになっちゃいました!

──末永くよろしくね、旦那様!」

「陽子……!!」

照れたようなその笑顔に、狂おしいほどの愛おしさを感じて僕は陽子に口付けした。

「ん…む……ああっ……」

甘く溶ける吐息は、すでに破瓜の痛みを凌駕する快感をにじませている。

僕たちはつながったままお互いをむさぼり始めた。

 

「ああっ……くふうっ……」

「んんっ……つぁあ……」

ひとつがいの若い牡と牝は、初めての交歓に身のうちが震えるほどに昂ぶっていた。

世界中のどこを探しても他にいない、互いの最高のパートナー。

その相手と、何もさえぎるものもなくつながる歓びは、それまでの人生で味わったことのないものだった。

僕の硬くそそり立った男性器は、陽子の蕩けきった女性器に絡め取られ、

蜜と粘膜と快楽の海の中で溺れていた。

陽子の甘やかな柔肉は、はじめてだというのに、これ以上はないという巧みな動きで僕の先端をなぶった。

「ううっ……ああっ……」

僕は思わず声を上げた。

「彰……気持ちいい……?」

熱い息を吐きながら、陽子が下からささやく。

「うんっ……すごくっ……気持ちいいっ……!!」

セックスがこんなに気持ちいいものだなんて──。

いや、ちがう。

これは、陽子とのセックスだから、こんなに気持ちいいんだ。

しびれるような頭で、僕はぼんやりとそう考えた。

「私もっ……すごく、気持ちいいっ!!」

陽子がぎゅっと抱きついてきた。

同じくらい強く抱きしめ返す。

固い抱擁で大きな動きはできなくなったけど、僕らは、それを解こうとは思わなかった。

わずかに動かせる腰を小刻みに突き動かして快楽をむさぼり、高みを目指す。

火照った肌がそのまま溶けて一つになる感覚。

「あ……。よ、陽子、僕もうっ……!!」

「んんっ……。彰、キスしてっ……!!」

再び口付けをしたとき、僕も陽子も限界に達した。

「〜〜〜っ!!」

「〜〜〜っ!!」

お互いの唇の中に、絶頂のあえぎを吹き込む。

僕の性器はどくどくと脈打ち、陽子の中に大量の子種を送り込んだ。

今日という日を待ち焦がれた精子たちが、愛しい女の胎内へ流れ込んで行く。

今日という日を待ち焦がれた子宮は、愛しい男のほとばしりを全て受け止める。

僕らは、一つになって一番高いところへ上り詰めた。

唇を離したのは、窒息寸前までお互いの唇をむさぼった後だった。

「……はぁあ……彰のせーえき、あたたかいよぅ……」

荒い息をつきながら、陽子が蕩けた声をあげる。

「……陽子の中もあったかい……」

僕らは、お互いの体温を感じてうっとりとなった。

「えへへ……赤ちゃん、できたかな……?」

「たぶん。……僕ら、相性いいし」

「うふふ。嬉しいなあ。――あたし、彰の赤ちゃん、産めるんだ……。

彰と結婚して、ずっとずっといっしょにいられるんだ……」

「陽子……」

僕は最愛の妻の身体を抱きしめた。

これから何千回も、何万回も、もっともっと多くの数抱きしめる強さで。

「彰、ずっとずっといっしょにいようね」

「うん! 死ぬまでいっしょにいよう!!」

「絶対だよっ!!」

「うんっ!!」

──陽子と僕は、互いの約束を破らない。

だから、僕らは、ずっとずっといっしょだ。

──幼い時から求めていたように。

 

「んふうっ……」

息を整えた僕は、ゆっくりと陽子の上から身を起こした。

ずるりと音を立てて僕のおち×ちんが、陽子の中から引き抜かれる。

陽子は枕をたぐり寄せると、それを自分のお尻の下に敷いて腰を持ち上げた。

膝の裏側で足を抱えこむ。――俗に言う「カエルさんのポーズ」だ。

性器の入り口を水平よりも高い位置にしたので、

僕の精液は、ほとんどこぼれることなく陽子の膣の中に留まった。

「こうやって、せーえきがこぼれないよう、大事にお腹の中にためておくと、妊娠しやすいんだって」

「ど、どこで、そういうの覚えるの?」

「ん。お祖母ちゃんから教わったよ」

「そ、そうなんだ……」

あからさまな姿勢の陽子に、射精したばかりだというのに、僕はどぎまぎした。

 

ちらちらと、陽子を見ていると、

「……彰のすけべ……」

布団の上に「カエルさんのポーズ」で横たわった陽子からにらまれた。

「ごめん……」

足を抱え込んだ陽子は、相当無防備な格好で、つまり、性器とか肛門とかが丸見えだ。

その姿勢が、精液が子宮の奥へ流れ込みやすい──つまり妊娠率を高める真面目な意味があるとはいえ、

目の前にそういうものが見えると、ついつい視線がいってしまう。

「お、男の性(さが)だよ……」

「まったく、しょうがない旦那さまね。――こっち来て」

陽子はため息をついて、手招きをした。

「???」

「よっと……これなら大丈夫、かな?」

陽子は体勢を入れ替えた。

四つん這いになって、頭を布団の上に低く伏せ、お尻をぴょこんと突き上げる。

腿をぴっちりと締めると、女性器は貝のように入り口を閉じた。

「ん……この姿勢なら、カエルさんほどじゃないけど、こぼれにくいから──してもいいよ」

月光にてらてらと光る白いお尻で、後背位のお誘いだ。

奥方様のご好意と許可に、僕の性器は喜んで跳ね上がった。

 

──こりゃ一生、尻にしかれそうだなあ。

──悪くない。この安産型の大きなお尻になら、いくらでもしかれたい。

 

僕はなめらかなお尻を抱きかかえて、人生二回目のセックスに没頭し始めた。

僕の奥さんは、僕と同じくらいにすけべな女の子だったので、

結局僕たちは、この一晩で六回も交わって──最初の子供たちを授かった。

 

 

 

「――ええーと、サイン、コサイン、タンジェント?」

「……そこはただの連立不等式よ」

渋い顔の(と言っても他の人には全然区別の付かない無表情だけど)星華ねえが指摘する。

「あ、あれー、おかしいな……」

「いや、式を見れば全然違うじゃん、彰。しっかりしてよー」

意外なことに数学は得意な陽子が、僕の不手際にぷぅっと頬を膨らませる。

「……こほん。陽子、そういうあなたも、……源氏物語の作者が琵琶法師っていうのは、何?」

こめかみを指で押さえながら美月ねえが質問すると、陽子はあわてて自分の解答用紙を見た。

「えっ?! 源氏物語って、「祇園精舎の鐘の声……」のお話じゃないのっ!?」

「……それは平家物語!」

「だ、だって平家のライバルが源氏なんでしょ?」

「それはまちがってないけど、この源氏はそれとは違う源氏なの!」

「あはは、陽子もダメダメじゃん」

「えへへ……」

「夫婦そろってダメダメでどうするの!」

美月ねえの一喝に、僕らは首をすくめた。

 

──オギャー、オギャー!

その声で目が覚めたのか、一菜(かずな)と一葉(ひとは)

――僕と陽子の長女と次女である双子が目を覚まして泣き出した。

「あらら、――おしめ?」

「よしっ、まかせろ!」

僕は部屋の隅に寝かせた愛し子たちのもとにすっとんでいった。

言っちゃなんだけど、今、僕は、日本で一番おしめのとりかえが上手い十七歳男子だと思う。

でも、今回は僕の出番ではなかったらしい。

「……おしめ、濡れてないみたい」

「あ、じゃ、おっぱいかな? そろそろ時間だし」

陽子がブラウスをはだけながら近寄ってくる。すっかり手馴れたものだ。

「はい、ごはんですよ〜」

最近とみに大きくなって、今では美月ねえにも負けないくらいになった陽子の胸に、

一菜と一葉は喜んで吸い付いた。

夢中になっておっぱいをのむ双子を眺めていると、陽子はちょっと目を上げ、くすりと笑う。

「パパには、夜中にあげるからね」

……よくできた女房です、はい。

陽子と僕は、夏休みの間中、ずっと交わり続けた。

交わるたびに、お屋敷のある御山──志津留の力と連動している霊山でもある──の具合は良くなり、

秋口に陽子の妊娠が分かった頃には、それはお祖父さんの全盛期の頃のように安定していた。

一菜と一葉という、十分に血の濃い、力をもった双子の当主は、

胎児の時点ですでにそれだけの力を持っているのだ。

 

九月に入ったときは休学扱いにしてもらっていた陽子は、妊娠が正式に分かった時点で

(もっとも陽子も、僕も、最初に交わったあの一夜の時に

子供が出来たことをすでに確信していたけど)高校を退学した。

部活や高校のみんなは、やっぱり説得しようと思ったようだけど、陽子の決意は揺るがなかった。

そして僕も、同じく高校をやめてお屋敷に引っ越してきた。

新しく父親と母親になった二人は、双子を育てながら、お屋敷で勉強し、大検を受けることにした。

「志津留の当主代行をするにしても、まずは大学には行ってもらわないと」

御山の力のタイムリミットに追われて、子作りは迫られていたけど、

当主代行としての修行は、社会人になってからでも遅くない、という美月ねえの判断によるものだ。

古文はじめ文系科目についてはエキスパートの美月ねえと、

化学はじめ理系科目については県下一だった星華ねえの二人を家庭教師に、

僕らは在宅で大学をめざすことにした。

双子を育てながらの生活にも都合がいい。

もっとも、美月ねえたちに言わせると、「二人とも相当頑張らないと大学行けないかも……」だそうだ。

それはちょっと困るけど、――まあ、なんとかなるような気がする。

僕も陽子もやるときはやるし、――二人そろっていれば、誰にも何にも負けはしないとも思う。

ましてや、今の僕らには、お互いと同じくらいに大切な「守るべき存在」がいる。

この子たちのためになるのなら、大検でも大学でも、

その先の志津留の運命でさえもどうにかしてしまえるだろう。

──絶対の信頼を置けるパートナーとともに歩む限り、僕らに恐いものなどない。

 

 

「ね、彰。この子たちの子育てが一段落したら、あたし、ママさんソフトボールにでも入ろうかなあ」

満腹になった双子にげっぷをさせてから寝かしつけた陽子は、屈託のない笑顔で言った。

「……いいね! 僕も応援するよ」

子供たちとお弁当を持って、陽子の試合を応援する未来を想像して、僕はにっこりと笑った。

でも、陽子は、そういう未来図でさえ、僕の予想のはるか上を行っていた。

「あ、でも、あたし、たくさん彰の子供産みたいから、いつまでたっても子育て終わらないかも……」

「そしたら、親子でソフトボールすればいい」

「あ! それいいねっ! 親子で2チーム作って試合しようよ! お父さんチームとお母さんチーム!」

「えーと、1チーム九人で、2チームで十八人、陽子と僕とを引いて、……じゅ、十六人子供作るの!?」

「それくらい軽い、軽い!!」

うーん、たしかに、陽子とならそれくらい作れそうな気がする……。

顔を見合わせてくすくす笑いをした僕らは、「今夜も、<仲良く>しよっか?」と目と目で会話した。

「――こほん」

その背後に、こめかみを押さえた美月ねえと星華ねえが立っていた。

「……一菜と一葉の弟か妹を作る前に、まずはしっかりお勉強していただきたいのですが、ご両人?」

「は……はぁーい……」

 

──時は八月。

強い日差しに全てが輝く季節の中、僕と陽子と子供たちは、

いずれ歩む志津留の運命の中、一日一日を大切に生きている。

この日々が、未来の幸せの礎(いしずえ)になることを知っているから。

 

                               FIN 

 

 

 

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